2011年5月29日
早口の人の記録で困るのは、そもそもきちんと発音されていない単語である。
いくら早口だって、相手に話の内容を伝えようと思ってしゃべっているわけで、
根気強く聞いていけば9割くらいは聞き取れる。
残りの1割は、そもそも発音していない。
母音が落ちるだけなら自分でゆっくり発音するとわかることもあるが、
子音まで落ちると、だいぶ違う単語になってしまう。
母音も子音も落ちてしまう単語は、
その人にとってなじみがあって、言い慣れている単語である。
言い慣れた人名、団体名、なじみのある概念、
口癖になっている接続詞や副詞。
問題は、なじみがある、言い慣れている、ということは、
その単語が話のキーワードになることが多いことだ。
この単語一つ聞き取れないことによって、
原稿全体で何を言っているのかわからないものが出来上がる。
これは致命的だ。
火力発電の専門家が「エレンジ」「エレンジ」と連呼する。
それは「LNG」だろう。
フェミニストの講演では、何度も出てくる「ンタチオカイ」がわからない。
何度も発言するのに、毎回「ンタチオ」としか発音しない。
その活動家の経歴が載っているサイトや主催したシンポジウムの記録などから
「女たちの会」であることがわかった。
オーラル・ヒストリーで学生時代の思い出を聞いているときに、
「カイフンチュ」が頻出する。これは「開北二中(仮名)」である。
逆に言えば、そのキーワードがわかることによって、
原稿全体のクオリティが格段に上がるのだ。
相手は早口で、ほかの部分もきちんと発音されていない。
聞き間違いを多くしているはずの原稿だ。
フェミニストの講演で、「○○○女たちの会」という
固有名詞がわかることによって、
今度は「○○○女たちの会」に関連する人名、活動内容から、
講演のほかの聞き取りにくい単語が芋づる式に引っ張れる。
極端な場合、
「そういうことはン」
と、文末が「ある」だか「ない」だか発音が不明瞭な場合でも、
「○○○女たちの会」の平素の主義主張から類推することができる。
いつも思うのは、聞き取れない単語というものは、
聞いたこともない専門用語であることは少なく、
当たり前の単語であるほうが多い、ということだ。
聞いたこともない専門用語はもちろん聞き取れないし、
「ナラティブ・エクスポージャー・セラピー」や
「アレキシサイミア傾向」といった単語は、調べ倒さないとわからない。
でも、これ言っちゃなんだが、
専門用語がわからかったら「ごめんなさい」してもいいと思う。
でも、「女たち」とか「二中」とか聞き取れなかったら、
「ごめんなさい」じゃ済まないよね。
だから、あなたにとって大切な団体名やキーワードは、
雑に発音しないでほしい、と切に願うのだ。
講演やインタビューのときだけでいいので。