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『さくさく堂のテープ起こし業務日誌』 バックナンバー 5


        === さくさく堂のテープ起こし業務日誌  第41号 (2004/7/18)===

         6月29日に国立国語研究所は、「第3回 「外来語」言い換え提案」を発表
        しました。うーん、既に古い話題だなあ。前回少し過激なメルマガをお届けし
        てしまったので、平常心に戻るのに時間がかかってしまったのよ。
         この発表はもう3回目なので目新しくもありませんが、とりあえずチェック
        はします。「新語認識度チェーック!」という意味合いが強いですね。多くの
        皆さんがそんなふうにこの記事を読んでいるんじゃないかな。クロスワードパ
        ズルに挑む気持ちと一緒。
         3回目にして当メルマガで話題にする理由は、たまたま6月ごろやっていた
        テープに出てきた言葉が多かったからです。どこかで聞いたことがあるという
        レベルではなく、最近のテープに出てきた、私にとっては生々しい語ばかりだ
        なあと思ったもので。ことしになってから、どういうわけか地方議会の議事録
        をほとんどやっていません。向いていないのかしらねー。その分やっているの
        が「~小委員会」「~部会」「~審査会」というタイプの会議録。この手のテ
        ープには本当に新語・バズワードのたぐいが多いです。

         片仮名語を積極的に使う人々の中で、国際会議によく出る学者さんがいらっ
        しゃいますが、彼らは新語を普及させようという気はあまりなくて、ただ日本
        語の中に外国語が交ざってしまっているだけです。場合によっては、外国語の
        中に日本語を織り交ぜていらっしゃる方もいます。例えばこんな感じで。

          ポリシーオリエンテッドなアカデミックなリサーチが重要です。

        あなたの日本語もかなり重要な局面を迎えています。既に日本語ではない可能
        性も高いです。

         ほかに片仮名語を積極的に使う人は、エコノミストとかアナリストとかでし
        ょうか。おお、第1回では「アナリスト」も入っていますね。各回ともいろい
        ろなジャンルから選ばれています。やはりIT関連が多い印象がありますが、
        3回目では行政関係でよく使う語が目に付きました。「アカウンタビリティー
        (説明責任)」「セーフガード(緊急輸入制限)」「ハザードマップ(防災地
        図)」「パブリックインボルブメント(住民参画)」「パブリックコメント
        (意見公募)」…… なんかここへきて、行政用語にターゲットを絞ってきた
        なあ。
         この外来語言い換え提案の目的の欄には、

          分かりにくい外来語を分かりやすくするための~

        と書いてあるんですが、もう少し言葉を付け足すと意味合いがはっきりします。

          (中央省庁が発表する文書の)分かりにくい外来語を
          (国民に)分かりやすくするための~

         いやーん、言い過ぎです。すみません。

         時代が違っていたら、きっと違うネーミングになった和風の言葉もあります
        ね。タイミングが違ったら、冷蔵庫をリフレジャレーター、電子レンジをマイ
        クロウェーブと呼んでいたでしょうか。「冷蔵庫」も「電子レンジ」も改めて
        見るとダサダサだと思いませんか。中国語みたいです。いえ、中国語がダサい
        ってわけじゃ……。電子レンジなんか、もうほとんどの機種が電子音でお知ら
        せするのに、「チンする」って言いますよね。同じようにマウスのダブルクリ
        ックは「カチカチする」のほうが短いし、わかりやすいし、センスいいと思う
        んだけど。えっ、よくない?

         仕事上では、こんな言い方は好きとか、変とか、気に入らないとか、そうい
        う感情とは少し離れて作業しています。いいも悪いも関係なくて、聞こえてき
        たら、それは当然意味を知っていて起こすものだからです。聞こえた語は意味
        がわからなければお話にならないので、新語だろうとただの外国語だろうと、
        知ってる振りして起こします。……間違いました。全部調べて起こします。
        (だから、私にポルトガル語とかロシア語とかが交ざっているテープは依頼し
        ないでください)

         あり得ないことですが、この発表に拘束力があって、言い換え案の日本語の
        ほうしか使ってはいけないことになったとしますね。それでも、テープの話を
        理解する労力というのはあまり変わらないだろうと思います。アカウンタビリ
        ティーやパブリックコメントはなぜ必要なのか? 必要になった背景は? ど
        ういう場面で使う言葉か?という問題は、それが外来語だから難しいのではあ
        りません。もしも外来語禁止みたいなことになっても、言い換えた日本語を使
        いこなす人は、現在「アカウンタビリティー」や「パブリックコメント」とい
        う言葉を使っている人だろうと思いますし、テープ起こし者の労苦も減るわけ
        ではありません。

       


        === さくさく堂のテープ起こし業務日誌  第42号 (2004/8/2)===

        ◆ 暑中お見舞い申し上げます
         ことしの夏は猛暑で、「ご自愛くださいませ」の言葉が飛び交っていますが、
        他人事じゃなくて、早速私は少し寝込みました。
         一人で仕事をしていると病気は困りますね。会社に行っていれば、
        「なんか最近○○が調子悪いのよね」
        「えー、それって病院行ったほうがいいよ。私の知り合いもさー、我慢してた
        ら○○○になってて、結局救急車でね……」
        という世間話もできますが、一人でいると、いつ治るのか、どの時点で病院に
        行くか、何科に行けばいいのか、それから「調子が悪いな」というブルーな精
        神状態も、すべて自己管理しなければなりません。

         ここはどちらかというと都会の住宅地ですが、普段から我が家は、急な残業
        の夜に子供を預かったり、お母さんが寝込んだときはおかずを持っていったり
        という、お互いの家庭に少し立ち入った付き合い方を何軒かとしています。

         自分の家庭だけでは解決できないことが、数軒の家庭で協力し合えば何でも
        ないことだったりします。在宅ワーカーだからといって全く外出しないという
        わけではありません。クライアントさんとの打ち合わせのときに子供が熱を出
        したらどうしよう、そんな不安を持っている方は結構いると思います。託児サ
        ービスはどんどん普及しているようですが、「ごめーん、ちょっとお熱があっ
        て幼稚園行けないんだけど、仕事で出掛けるから、うちの子預かって」とお願
        いし合えるご近所さんがいれば、それで簡単に済んでしまう話です。仕事でな
        くてもいいんです。「きょう、飲み会!」もOK。子供同士も兄弟みたいに育
        っているので、母に置いていかれるという悲壮感はなく、「きょうお泊まり?
        えー、もっと遅く迎えにきて」と、むしろ楽しみにしています。
         そういう付き合いは少々暑苦しく、近代日本が捨ててきたご近所付き合いで
        すが、安心で安全で楽しくて、私にとっては結構居心地がいいのです。何もか
        も自分で完璧にこなすことなんかできません。だから皆さん、助けてください。
        その代わり私にできることはいっぱい助けてあげるよ。「情けは人のためなら
        ず」とか「遠い親戚より近くの他人」とかが実感としてわかってくるってのは、
        だんだん年寄りになってきているってことですかね。

         今回私はあまりにも症状がつらい日、「怖いよ~~、一緒にいて~~~」と
        近所の家に逃げ込み、そこで「午後の外来に行っておいで」と促されました。
        情けないですねー。ついでに家族で夕飯もごちそうになりました。家にいたら
        宅配ピザを子供に食べさせ、自分は食べられずに、「早く食べなさい!」なん
        て八つ当たりしていたことでしょう。
         結局1週間で2キロも痩せてよろよろしていましたが、その週は5時間起こ
        しました。歩けないほど体力が落ちても、手は動かせるんですよね。会社勤め
        だったら絶対休んでいる状態です。会社員なら、会社に行かなきゃ自動的に仕
        事ができない。ところが在宅ワーカーはちょっとよくなったら30分とか1時間
        という単位で仕事ができてしまいます。納期も待ってくれません。いいことか
        悪いことかわかりませんね。

         急病で納期が守れそうにない場合の逃げ道は、大体3パターンです。

        1 クライアントに相談して、途中でキャンセルするか、納期を延ばしてもらう
        2 同業者に助けてもらう(下請けに出す)
        3 やっぱり自分で頑張る

         このどれが可能かを判断する能力が必要です。特に最終手段である仕事のキ
        ャンセルの場合は早めに。この「早めに」ってのが重要なんですよね。納品日
        当日になって「実はまだできていないので、この仕事キャンセルさせてくださ
        い」って言えますか。もちろん不慮の事故はいつでも起こり得るんですが、
        「できませんでしたなんて言い出しにくくて……」という理由は許されないで
        しょ。

         急病ではなくても、録音状態や話し手のしゃべり方が不明瞭で、普通の納期
        で普通レベルの原稿が作成できそうもないことはあります。この程度の録音な
        ら自分は何日間で仕上げられて、完成レベルはどの程度ということは、15分か
        30分ざっと起こした段階で判断できないといけない。
         例えば1週間の納期でまだ1日しかたっていないのに、「すみません。納期
        を延ばしていただけますか。しかも延ばしてもらっても、いい原稿ができそう
        にありません」ってな話をされたら(もちろん言い方は違うけどね)、クライ
        アントはギョッとするだろうなあといつも思うんですよね。そんなこと言わな
        いで、できた振りしてこそっと納品しちゃおうかなあと。
         でもねえ、聞こえないテープは時間がかかるくせに絶対いい原稿にならない。
        これは間違いないと私は思ってるんです。だから、ためらいながらも、絶対に
        早めにクライアントに相談します。私にとっては、納品日になってからのごめ
        んなさいのほうがずっと怖いので。
         それでクライアントさん側でも聞き直しをするということになれば、逆に納
        期を早めることもあります。聞こえない部分を穴のまま納品するか、何がしか
        の加工をするかということも、改めて検討します。出された条件で、少しでも
        いい原稿を出せればと思います。

         そんなわけで、在宅ワーカーはおちおち病気にもなっていられないんですが、
        ドリンク剤を飲んでゴリゴリ起こして仕事を片付け、かなり病人状態で家族旅
        行に行ってきました。無謀だ、無謀すぎる。
         ところが、都会の熱風から脱出したら食欲も戻ってきて、見事復活。海でカ
        ヤックを漕いできました。2泊の旅行から帰ってきたら、体重はちゃんと戻っ
        ていました。
         さくさく堂のカヤック姿をごらんになりたい方は、シーカヤック ワンダフ
        ルワールドさんのサイトのツアー写真集7/28に載せていただきましたので、
        勇気のある方はごらんください。ハハハ カヤックは初心者でしたが、楽しく
        遊べました。体を動かすのがいい療養になるんですね。皆さんもぜひどうぞ。


         次回は、「同業者に助けてもらう(下請けに出す)」という話に続きます。

        ◆ 御礼
         メルマガ「W-SOHOニュース」さんが7月はテープ起こしの話題を取り上げ
        ています。皆様もどうぞごらんください。拙メルマガも第259号に紹介してい
        ただきました。ありがとうございます。

       

        === さくさく堂のテープ起こし業務日誌  第43号 (2004/8/13)===

        ◆ セーーーーフ
         とある日……。
         電話でご依頼があって、翌日宅配便が届く予定だったんですよ。するとまた
        電話。
        「あのー、ちょっと外に用があって、おたくのそばの○○ホームの近くにいる
        んですが」
        って、うちから30歩のところじゃあーりませんか。
        「1分で伺えます」
        と飛び出していきました。おかげでテープを半日早めにいただくことができま
        した。ありがとうございます。長さは2時間強です。うまくいったらあした中
        に粗起こしできるかなー。
         そのとき、はたと気付きました。よかった、ちゃんとした服着ていて。よか
        った、ちゃんとお化粧していて。よかった、髪がボサボサじゃなくて。ほんと
        にねー、この暑さですごいことになっている日がありますから、奇跡的にちゃ
        んとした格好していましたね。これは誰に感謝すればいいんですかね。誰かれ
        かまわずお礼を言いたい気分ですねって、普段はそんなにすごいのかい。

        ◆ 同業者に助けてもらう(下請けに出す)
         前回の続きです。

         これはいろいろな角度から話ができるので、今回はあくまで急病の場合の危
        機管理という観点からお話ししますね。
         まず、この手段が使えない場合はたくさんあります。「納品してくれれば手
        段は関知しない、とにかく納品まで責任を持つのがプロでしょう」と考えるク
        ライアントと「二重の下請けに出すぐらいなら、できないと正直に言って仕事
        をキャンセルしてほしい」と考えるクライアントとあるでしょうから、そこは
        注意してください。
         速記事務所、テープ起こし会社からの仕事は、普通下請けに出しません。私
        がお世話になっている事務所からは「業務内容を外部に出すことを禁止する」
        とか「二重の下請けを禁止する」なんて注意や制約はされていませんが、多分
        そんなこと当たり前だと思っているからでしょうね。通常そういうところの単
        価はそれほど高くありませんので、下請けに出してももうかりません。下請け
        に出せるほど納期の余裕もありません。急病でできない場合はバックするのが
        よいでしょう。
         速記事務所などは、代わりの作業者をすぐ探せるようになっています。(い
        や、バタバタはするんでしょうけどね) そのため作業者の納期も、実際の納
        期よりかなり短かめになっている場合があります。作業者から納品されないこ
        とを担保している分、単価が安くなるということですね。とにかく納期は守っ
        てもらいたいタイプの依頼ならば、安いからといって個人のテープ起こし事務
        所に依頼するのではなく、きちんとした法人に依頼するほうが安心だと思いま
        す。
         もう一つ下請けに出せない仕事は、守秘義務の強い仕事です。個人情報が入
        っていたり、内容がクライアントの利益に直接結び付くものの場合は、下請け
        に出せません。

         そのようなもろもろの条件がオーケーで下請けに出すのならば、同業者に助
        けてもらう体制はぜひつくっておいたほうがよいです。体制というか、「ちょ
        っと助けて~」という人間関係ですね。
         最近はテープ起こしをやりたいという方はたくさんいらっしゃいます。誰で
        も参加できるオープンな掲示板で募集すると、応募者は簡単に見つかります。
        作業者募集の掲示板を見ていると、早い場合は10分、20分で締め切られていき
        ます。
         ただ、どの程度の実力か全くわからない方に下請けに出すのはかなりリスク
        が高い。こちらは病気で、少しでも精度の高い納品物が欲しいときにはできれ
        ば避けたい。例えば1時間テープの聴き直しは、安定した実力の方なら2時間
        程度で終わりますが、5時間かかってしまう場合もあります。修正に5時間も
        かかるような原稿を、そのまま私の名前で納品できませんので、下請けに出し
        たとはいえ、聴き直し作業はカットできません。必ずやります。

        [自分でやる]
          最初の起こし(3時間)+聴き直し(2時間)
          ※報酬は全部自分のもの
        [下請けに出す]
          最初の起こし(0時間)+聴き直し(5時間)
                +テープのダビングや発送作業等事務処理(2時間)
          ※報酬は下請けに半分以上持っていかれる

        これが、急病でやむを得ず下請けに出したけれど、「自分でやったほうが速か
        った」と言われる最悪のパターンです。個人事務所の知り合いの多くは、下請
        けに出して「自分でやったほうが速かった」という経験を持っています。残念
        ながら、私もあります。「自分でやったほうが~」という作業者に当たってし
        まう確率は低くないのです。「ちょっと助けて~」の人間関係をつくっておい
        たほうがいいというのはこういうことです。

        ◆ ヘルプという言葉(辛口トークです)
         同業者に下請けに出すことを、個人事務所の業界では「ヘルプ」と表現する
        ことが多いです。

          ヘルプの募集です
          ヘルプをさせてください

        アブリケーションのヘルプやヘルプデスクなど、「ヘルプ」という言葉は外来
        語として定着しつつあります。緊急の場合に「ちょっと助けて~」というのは、
        まさにヘルプという感じですね。「発注者」「依頼主」「受注者」「作業者」
        「下請け」などの言葉はあまりにも上下関係がはっきりしていて、「ヘルプ」
        という柔らかい言葉が好まれるのはよくわかります。

         「テープ起こしの仕事をしたい」という初心者が最初に仕事を受注するには、
        まず速記事務所などの委託スタッフになることです。ところが、そういうとこ
        ろの募集要件には「経験者のみ」なんて書いてある。だから、「じゃ、自分で
        営業しちゃえ」という全く初心者の営業サイトが出てきたりするのです。ちな
        みに、私は通信教育などの修了時点では、まだ初心者だと思います。
         それよりも良識のある人は実績を積むことを考えるので、仕事の募集の掲示
        板で応募をします。運がよければ、個人事務所の仕事でも赤原稿を返してくれ
        ますしね。
         そういうところでヘルプという言葉を使うと、かなり不自然な表現になりま
        す。

          実績づくりのため、まずはヘルプから始めたいと思います

         実績がないからといって、その人に実力がないとは言えません。きちんとし
        た仕事のできる人もいます。そこがこの仕事の微妙なところ。でも、慣れとい
        うのは結構重要で、やっぱり起こし時間の少ない人は原稿が安定していないこ
        とが多いものです。そういう原稿は、全然「ヘルプ」にならないのよね。「実
        績も実力もありません。勉強させてください」という文脈の中で、ヘルプとい
        う言葉を使う違和感はどうしようもありませんね。
         だから、私はヘルプという言葉は使いません。

         初心者の「ヘルプ」や営業サイトを完全に否定しているわけではありません。
        どのような方法だろうと、結局のところいい原稿を作れる人が生き残っていく
        世界です。

      

        === さくさく堂のテープ起こし業務日誌  第44号 (2004/9/4)===

        ◆ 得意分野
         先日、かなり内容が難しそうな仕事の打診がありました。

         普通の仕事は、こちらがその分野に関して素人であるということは承知で発
        注されます(と私は思っています)。ですから、どんな内容だろうと、どんな
        不明瞭な会話だろうと、全部起こす意気込みで聴くわけですが、それでもわか
        らないものはわからないでいいという気持ちの逃げ場はちょっと持っているも
        のです。
         私に求められているものは、「広辞苑で調べられる程度の言葉は理解しろ」
        「ネットで調べられる程度のことは調べろ」「表記辞書に載っている程度の表
        記は間違えるな」というレベルの原稿だと思うのです。それはたやすいことで
        はなくて、到達するのは至難の業ですがね。例えば最新技術の話題で、この技
        術についてはまだネットには情報が出ていないという仕事がたまにありますが、
        そこまでいっちゃうと、それは私には調べられなくて当然とクライアントも思
        っているはずだという変な安心感の下に起こしています。ちなみにこの仕事、
        もちろん守秘義務レベルMAXですが、話そうにも世間話にはなりませんね。
         「図書館で調べられる程度のものは調べろ」を入れたいところですが、そこ
        までの時間的な猶予のない仕事がほとんどですね。正確さはある程度欲しいが、
        同時にスピードが求められる仕事のほうが多いです。

         打診された仕事というのは、話しているのは専門家、起こした原稿を読むの
        も専門家という研究資料となる分野でした。これをやるには、ある程度本格的
        にその分野の勉強をしなければなりません。そのジャンルはもともと不得意で
        あったこともあり、報酬はべらぼうによかったのですが、逆にそれで一層恐れ
        をなして一度お断りしました。

        私「そういう仕事は大学院生あたりがアルバイトでやるのが一番だと思うんで
        すけど。テープ起こしとしてはプロでも、この分野の門外漢の私がやるよりは
        よっぽどいい原稿を仕上げると思うんです。素人の私が仕上げてプロが喜ぶ原
        稿を作る自信はないですよ」
        打診者「そうは言っても、多分大学院生にはテープ起こしという作業ができな
        いんだよね。途中で投げ出しちゃう」
        私「それは現実として理解できるけど、テープ起こしのプロに依頼する理由が
        そんな消去法的な理由だけというのでは、こちらの仕事をやる意義がなくなっ
        てしまうでしょう」
        打診者「だから多分クライアントは、本当はこの分野のエキスパートのテープ
        起こし者に育ってくれればと思っているんだよね」

         そこまで話して、これは本腰を入れてこの分野の勉強をする覚悟がないと受
        けちゃいけないんだろうなと考え、さらに腰が引けてしまったのですが、1週
        間ほど悩み、結局ほんの少しだけ受注することにしました。
         辞書やネットで調べられることなんかわかって当然、それ以上のものをどう
        原稿に盛り込むかという仕事、じっくり時間をかけて、本腰を入れて勉強して
        います。幸いスピードは要求されていない。(じゃなきゃ、受けられない)
         まだこの分野のエキスパートになる覚悟はありません。ってーか、だいたい
        不得意分野なんだよね。じゃ、自分の得意分野って何だろう。どこを伸ばして
        いけばいんだろうと思いを馳せたりしますが、それは今後の課題。うっすらと、
        漠然と好きな分野、得意な分野のイメージはありますが、お客様にこの分野な
        ら得意ですと言えるところまでには至っていません。まだまだ「何でもできま
        す、さくさく堂」のスタンスからは脱出できそうにありません。ゆっくりいき
        ます。ハイ

        ◆ いざ繁忙期
         さあ、9月議会の時期になりました。皆様のところもお忙しくなってきたで
        しょうか。私は今年度は担当議会を持っていないんですが、久しぶりに単発で
        幾つか議会をやっています。たまにはいいかな。
         多いのは一般の会議録です。並行して小難しい分野(↑)をやっていると、
        会議録が楽しいこと、楽しいこと。サクサク進みます。

      

        === さくさく堂のテープ起こし業務日誌  第45号 (2004/9/24)===

         ◆ うれしくないような、うれしいような仕事
         当事者の方に証言をいただく会議がありました。その方にとってはおつらい
        過去なので、涙ながらにご証言くださっていて、聞いているのはちょっとつら
        い……のが半分。文字数が少なくてラッキーと思ってしまうのが半分。

         皆様、こんにちは。性悪起こし人、さくさく堂です。

         こういうの、よく聴き取れなかったりするので、言葉を拾うことに注意がい
        って、お話自体にはあまり感情移入できません。ふとカウンターを見るとどん
        どこ進んでいるのがうれしくて、余計悲しさから気持ちが遠のいたりします。
         調べものをしながら聴き直し作業をしていると、周辺事情もわかってくるし、
        ストーリーをちゃんと追うので感情移入できるようになりますが、それはそれ
        で結構切ない。うるうるっときますが、できるだけ聞き流そう。お仕事、お仕
        事……。

         そのお仕事、1時間分として約1万4,000字でございました。こんなに少ない
        文字数は久しぶり。その前は2万5,000字だったからなー。次はあまり悲しくな
        い感じで、こういうのを下さい。

         テープ起こしの料金は、文字数換算のところもありますが、録音時間単価に
        よるものが多いです。例えば1円/文字(この単価はちょっと高めかな?)とす
        ると、上記の2つの仕事は1万4,000円と2万5,000円という差が出てしまいま
        す。作業者の労力から考えると文字数換算のほうがしっくりくるのですが、1
        時間の文字数があまりにもテープによって違うので安易に見積もりが出せない。
        クライアントにはちょっと説明しにくいですね。
         それよりもっと問題なのは、

          やはりそういう問題は、やはり困るんですね。

        という文章があったとき、どちらかの「やはり」は削除しますが、そうすると
        3円安くなります。あるいは、

          そういう問題はどうしたら……。

        という文章に「いいのでしょうか」という語尾を付けると6円の追加料金。漢
        字にするか、平仮名にするかという問題も、料金として得か損かということと
        直結してしまいます。
         こういうのはトラブルの元だから、録音時間で単価設定をして、楽なテープ
        も大変なテープも両方あってトントンで割り切りましょうという業者が多いの
        かなあ。

        ◆ 地方の事情
         お誘いをいただいて、他県のソーホー・ベンチャー向けのセミナーを聞きに
        いきました。「基調講演+パネルディスカッション」という形式のセミナーは
        仕事でやることが結構あるので、基調講演なんかは完全に仕事モードの耳で聴
        いてしまいましたよ。
         神奈川県は横浜・川崎という大都市を抱えている県ですから、この手のイベ
        ントは県単位では目立たないです。むしろもう少し過疎や失業率が県全域で深
        刻になっているほうが、ソーホーやベンチャーに対して、県も真剣に取り組め
        るように思います。
         「雇用促進対策、何とかするのが自治体の責任だろー」「県の仕事回せー」
        と声高に叫んでも、なかなか行政の足並みとは揃わなかったりします。むしろ
        行政などあてにせず、自分たちの知恵やエネルギーで立ち上がってくるソーホ
        ーやベンチャーを自治体のほうで見つけてくれる。それが自治体と仲良くなる
        近道というケースも出てきています。行政とのつながりが必ずしも必要という
        わけではありませんが、地域でソーホーやベンチャーを考えるなら、1つの活
        路になる面はあるんじゃないでしょうか。上手にやれば、ウィン・ウィンの構
        造にできるなーなんて。今回のセミナーでは、よいかたちでの地域の盛り上が
        り、自治体の意気込みを感じて、見ていて気持ちがよかったです。
         セミナーの中身について、そんなことをつらつらと考えたりするのは、これ
        までお役所絡みの仕事を数多くやってきたからだろうなと思います。こういう
        視点は、この仕事をやっていなかったら絶対持っていなかった。そんな自分の
        視点の変化も面白いです。

        ◆ 音声処理ファイル勉強会
         ついでに、セミナーに参加していた1つのソーホーグループが主催したDigiOn
        Sound4 Expressの講習会も聞いてきました。こっそり交ぜてもらったというの
        が正しいけど。和気あいあいとしつつ、中身も濃い講習会でした。
         今のところ私は音声ファイルの仕事はほとんどないし、録音のよくない仕事
        もほとんどないので、音声ファイルの加工についてのスキルアップは急いでい
        ない。DigiOnも今すぐに買う必要はないけど、買ったら使えそうだなというと
        ころまでは習ってきました。

         ここで録音媒体についての私見を言っておきます。
         一部で「カセットテープなんて過去の遺物。もう音声ファイルの時代」とい
        う発言も見掛けますが、それはあなたのクライアントさん次第です。クライア
        ントがいつも最新の知識と最新の設備を持っているわけではありません。カセ
        ットテープを見下すということは、あなたのクライアントを見下すということ
        になりかねません。
         仲介業者・印刷会社・出版社、どこから仕事を得ようと、個人で仕事をする
        なら、レギュラーのクライアントさんはせいぜい10社程度でしょう。そこのお
        客さんが何に録音するかです。業界全体の主流が何になろうとも、自分のクラ
        イアントがそうでなければ、自分には関係ないんですね。いえ、新しい技術の
        勉強が不必要だという意味ではありません。ただ、抱えられるクライアントの
        数があまりにも少ないので、業界全体のモードと自分のクライアントのモード
        は大きくずれることがあるということです。
         今は通信教育などを修了した後、同業者のいわゆるヘルプから仕事をスター
        トする方がかなりいらっしゃいます。いわばプロ同士の受発注ですから、一番
        速くて安価なやりとりとして、音声ファイルの送受信が非常に多くなっていま
        す。同業者の下請けを考えるならば、音声ファイルが扱えないと仕事の受注の
        幅が狭くなるのは事実です。

         録音の質でいえば、日本の磁気テープというのは世界最高品質だと思うんで
        すよね。ICレコーダーはテープレコーダーの音質には到底かなわない。MD
        もいい音ですけど、どうも立場があやういなあ。音質の話は結局音楽の話なの
        で、人の言葉を録音するテープ起こしでは、録音状態がよければ、どんな媒体
        だろうと深刻な問題じゃないんですけどね。それでも、テープレコーダーはそ
        のうち壊れ、ICレコーダーに切り替わっていくでしょう。音質が悪い方向へ
        いくのは、なんだか複雑ですね。

         DigiOnは市販ソフトですから、フリーソフトに比べて機能も多いし、録音、
        ノイズ除去処理も強力な印象を受けました。ヘルプ機能も充実していますから、
        そういう意味でも「とりあえず使い始めたら、何とかなりそー」という感じが
        うれしい。
         どのソフトだろうと周波数ごとに音を分割して、周波数単位でカットしたり、
        振幅を大きくしたり、波を滑らかにしたりするという原理は同じだと思うので、
        音声の周波数帯域にどっかり雑音が乗っかっていれば、それは除去できないは
        ずです。(よね? 違っていたらごめんなさい) 音声処理ソフトは万能では
        ありません。そこを理解して、上手に使いこなしたいものです。

       

        === さくさく堂のテープ起こし業務日誌  第46号 (2004/10/13)===

        ◆ 語尾がない文章はつらい……
         テープ起こしをやっていて、夢というか、待ち望んでいることの一つは、素
        晴らしい語り手に出会うことです。

         でも、残念なことに素晴らしくない語り手ほど印象に残ります。聞いてるそ
        ばから、「ん? ん?」と再生をストップしてしまいます。何度も巻き戻して、
        リフレインで聞いてしまいます。「この後、必ず言い直しをする」とか「また
        『あれ』でごまかしたよ」とか、「『いわゆる』が『いわゆる』になってない
        じゃん」とか、癖まで把握できるようになっていきます。それがいつしか愛憎
        という感情になって……。(ならねーよ)
         おかげで一刻も早く忘れたい人ほど、忘れられない人になってしまうことが
        よくあります。

         そういう方にまた巡り会いましたので、少し長いですが掲載します。もちろ
        ん元の文章からかなり加工してありますので、該当する協会等は存在しません。

        《原文(「えー」「あー」程度だけカットした一番軽いケバとり)》
           例えばこれはあそこでやっているわけですが、A市あたりでやっている
          んですが、ペットセラピーをしたら、どれだけ医療費が下がったというデ
          ータを出しているところが。これはペットセラピーじゃないんですけれど
          も。それはストレッチ体操ですが、下がったと。それだったら、そこへお
          金を出してくれるから、非常に当たり前のことで、こんな安いことはない
          というのが、実はペットセラピーはそういうアピールをぼんぼんして、例
          えばその中に中間に入るシステムの運営費をしっかりいくと。
           要するにてんびんじゃないんですが、介護保険とかいろんなことで医療
          よりもはるかにそちらをやったら安いというデータを出していかないと、
          協会の話ですね。それを皆さんと協力しながら、お医者さんの協力も得な
          がら、ちょっと人情論や、もっと言えば、ペットを誰も悪いことを言う人
          は、極端な言い方ですが、誰もいないですよ。ただ、それをちょっと証明
          しながら、具体的に国を動かすというのはそんなお情けのお涙ちょうだい
          で、ここだけ足らないからお金ちょうだいなんて卑屈なことじゃなくて、
          これをやったらこんなに浮くんですよというデータをみんなでこれから築
          き上げて、だいぶそれが先ほどの。ですから、第2番目でしたか、第3番
          目の生きる力云々というのは、実はここに絡んでくるわけです。

         どうです、訳わかんないでしょう。それでも、話したい内容や話したい情熱
        は伝わりますねえ。その気持ちに免じて、何とか文字にしてあげたいという気
        分にはなります。これが「愛憎」ですよ。(ちがーう)
         では、実際にやっている作業ではありませんが、これをいじくり倒しちゃい
        ましょう。まずもう少し言葉を削ります。

          ┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
           削除する言葉は打ち消し線で、付け足す言葉は紫色にしてあります
          ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛

        《強めのケバとり》
           例えばこれはあそこでやっているわけですが、A市あたりでやっている
          んですが、ペットセラピーをしたら、どれだけ医療費が下がったというデ
          ータを出しているところが。これはペットセラピーじゃないんですけれど
          も。それはストレッチ体操ですが、下がったと。それだったら、そこへお
          金を出してくれるから、非常に当たり前のことで、こんな安いことはない
          というのが、実はペットセラピーはそういうアピールをぼんぼんして、例
          えばその中に中間に入るシステムの運営費をしっかりいくと。
           要するにてんびんじゃないんですが、介護保険とかいろんなことで医療
          よりもはるかにそちらをやったら安いというデータを出していかないと、
          協会の話ですね。それを皆さんと協力しながら、お医者さんの協力も得な
          がら、ちょっと人情論や、もっと言えば、ペットを誰も悪いことを言う人
          は、極端な言い方ですが、誰もいないですよ。ただ、それをちょっと証明
          しながら、具体的に国を動かすというのはそんなお情けのお涙ちょうだい
          で、ここだけ足らないからお金ちょうだいなんて卑屈なことじゃなくて、
          これをやったらこんなに浮くんですよというデータをみんなでこれから築
          き上げて、だいぶそれが先ほどの。ですから、第2番目でしたか、第3番
          目の生きる力云々というのは、実はここに絡んでくるわけです。

        うーん、あまり削れませんね。

         では、次に全く削除はしないで、足りない語尾等を足して、意味がわかる文
        章にしてみます。

        《言葉の付け足し 削除なし》
           例えばこれはA市あたりでやっているんですが、ペットセラピーをした
          ら、どれだけ医療費が下がったというデータを出しているところがあるん
          です。これはペットセラピーじゃないんですけれども。それはストレッチ
          体操ですが。それだったら、お金がかからないほうがいいので、国はそこ
          へお金を出してくれます。これは非常に当たり前のことです。こんな安い
          ことはないんです。ペットセラピーはそういうアピールをぼんぼんしたほ
          うがいい/していかなければいけない。その中間に入るシステムの運営費
          をしっかりもらう。
           要するにてんびんじゃないんですが、介護保険とかいろんなことで医療
          費よりもはるかにそちらをやったら安いというデータを出していかないと
          いけない。これは協会の話ですね。それを皆さんと、お医者さんの協力も
          得ながらやっていく。ちょっと人情論でやるようなものじゃない。もっと
          言えば、ペットを悪いことを言う人は、極端な言い方ですが、誰もいない
          ですよ。ただ、それを証明しながらやっていくことが必要なんです。具体
          的に国を動かすというのはそんなお情けのお涙ちょうだいで、ここだけ足
          らないからお金ちょうだいなんて卑屈なことじゃなくて、これをやったら
          こんなに浮くんですよということを示さなければいけない。データをみん
          なでこれから築き上げていく。、だいぶそれが先ほどの話につながってい
          く。ですから、第2番目でしたか、第3番目の生きる力云々というのは、
          実はここに絡んでくるわけです。

         本当はこの程度のことを言いたいんでしょうね。これで内容はかなりつなが
        るようになりましたが、この作業は実際にはしません。これでは言葉を付け足
        しすぎ。「したほうがいい」とか「示さなければならない」とかは、あくまで
        私の解釈した内容ですから、本当に話し手が言おうとしていたことかどうかは
        わかりません。
         言いたい趣旨はきっと「運営費を国からがっぽりもらうために、ぼんぼんア
        ピールをしていこう」ということですが、「がっぽりもらう」なんて全然言っ
        ていません。(笑) これを付け足すのは、テープ起こし者の権限を超えてい
        る。そういうわからない部分を勝手に足しちゃあいかんのよ。

         じゃ、言葉を足すなんてそんな越権行為はしないで、削除や言葉の入れ替え
        だけで何とかつなげようというのが次の試みです。

        《削除と入れ替え 言葉の付け足しなし》
           例えばこれはA市あたりでやっているんですが、ペットセラピーをした
          ら、どれだけ医療費が下がったというデータを出しているところが。これ
          はペットセラピーじゃないんですけれども。それはストレッチ体操ですが。
          それだったら、そこへお金を出してくれるから、非常に当たり前のことで、
          こんな安いことはない。というのが、ペットセラピーはそういうアピール
          をぼんぼんして、その中間に入るシステムの運営費をしっかりいくと。
           要するにてんびんじゃないんですが、介護保険とかいろんなことで、医
          療よりもはるかにそちらをやったら安いというデータを皆さんとお医者さ
          んの協力も得ながら、協会は出していかないと。、協会の話ですね。それ
          を皆さんと、お医者さんの協力も得ながら、ちょっと人情論や、もっと言
          えば、極端な言い方ですが、ペットを悪いことを言う人は、極端な言い方
          ですが、誰もいないですよ。ただ、それを証明しながら、具体的に国を動
          かすというのはそんなお情けのお涙ちょうだいで、ここだけ足らないから
          お金ちょうだいなんて卑屈なことじゃなくて、これをやったらこんなに浮
          くんですよというデータをみんなでこれから築き上げて、証明していく。
          だいぶそれが先ほどの。ですから、先ほどの第2番目でしたか、第3番目
          の生きる力云々というのは、実はここに絡んでくるわけです。

         ご本人の発言していないことはあくまで足さないという態度を貫くと、今度
        は苦し紛れな文章になってしまいます。足らない言葉があるんだから、しょう
        がないですね。
         それでも会議録の場合は、基本的にこの程度を心掛けています。(だから、
        いつも苦し紛れなんだよ) ケース・バイ・ケースケースですが、言っていな
        いことを言ったようにするのも、上手にしゃべれなかった発言を名演説にして
        しまうのも、やはり記録の改竄(かいざん)だと思う。この発言だって、言い
        たいことはたっくさんあるけど、いろんな関係者への遠慮もあって、オブラー
        トに包んだような、はっきりしない意見を言わざるを得ないという意識が、こ
        ういう話し方にさせているニュアンスがあります。それも残すのが会議録だと
        思う。

         次のは、適宜言葉の加除をして、読めるところまで整えた文章です。

        《整えた文章》
           例えばA市あたりでは、ストレッチ体操をしたら、どれだけ医療費が下
          がったというデータを出しているんです。それだったら、そこへお金を出
          してくれます。非常に当たり前のことで、こんな安いことはない。ペット
          セラピーはそういうアピールをぼんぼんして、その中間に入るシステムの
          運営費をしっかりしていくと。
           要するにてんびんじゃないんですが、介護保険とかいろんなことで医療
          よりもはるかにそちらをやったほうが安いというデータを、皆さんと協力
          し、お医者さんの協力も得ながら、協会は出していかないと。極端な言い
          方ですが、ペットのことを悪く言う人は誰もいないですよ。ただ、具体的
          に国を動かすというのは、お情けのお涙ちょうだいで、ここだけ足らない
          からお金ちょうだいなんて卑屈なことじゃなくて、これをやったらこんな
          に浮くんですよというデータを、みんなでこれから築き上げていく。です
          から実は、先ほどの第2番目でしたか、第3番目の生きる力云々というの
          はここに絡んでくるわけです。

         これが講演録なら、この程度まで仕上げることもあります。会議録にしろ、
        要約の域まで求められている場合は、この程度やっちゃう場合もあります。ホ
        ントにケース・バイ・ケースです。

         今回は遊びですから、絶対に言葉を削除しないとか、絶対に言葉を足さない
        とかという制限を付けていろいろ直してみましたが、普通はそれらを同時に頭
        の中で組み立てています。それはよく言われる「さじ加減」というようなもの
        です。
         お客さんはどういう文章をもらったらうれしいかということを考えながらや
        れば、そんなにとんでもない方針にはならないだろうと思います。「会議録は
        こう起こすべき」とか、「講演録はこう起こすべき」とか、「通信教育ではこ
        う習った」とか、もっと言うと「私のテープ起こしはこうだ」ということにこ
        だわるとお客さんが見えなくなる。このお客さんならどういう仕上がりを求め
        ているだろうかと思い描くことがいつもいつも一番大切ではないかと思います。

      


        === さくさく堂のテープ起こし業務日誌  第47号 (2004/11/1)===

        ◆ ことしの新語
         麻nekoさんのブログ「テープ起こし(録音反訳)のHP」で、新語に ついて
        のお話があったので、こちらで反応します。

         ことし何回か仕事で聞いた新語は「QOL」です。新語と言っても、私にと
        ってのということで、10年以上前からある言葉ですが。
         クオリティー・オブ・ライフ、「生活の質」と訳されることもあります。も
        ともとは終末期医療をどのようにすべきかというところから出てきた言葉です
        が、慢性疾患の医療でも聞きましたし、全く医療関係ではないテープでも耳に
        しましたので、だいぶ普通名詞として浸透してきているようです。

         「人間の尊厳を考慮した生活の質」という意味で使われるので、これを単に
        「生活の質」と訳してしまうと、背景を知らない人はもっと広義な意味として
        とらえてしまいます。家電製品がグレードアップするのも、ある意味生活の質
        が上がることになりますかねえ。
         QOLにスポッとはまる日本語訳を私は思い付きません。だから、そのまま
        QOLと言う人が多いんでしょう。「QOL、クオリティー・オブ・ライフの
        ことですが……」と言えば、英語のほうも中学生でもわかる単語ですから、そ
        れでニュアンスは伝わってしまいます。呼応する日本語の訳語をつくる切羽詰
        まった必要性がない。いわば消去法的に外来語が浸透していくケースですね。

        ◆ 新刊紹介
        『33歳からのハローワーク アタシ探し シゴト探し』(島沢優子著)小学館
        という本が出ました。女性向けの転職情報本です。そのテープ起こしの項に私
        のことが載っています。

         この本では、30歳から40歳ぐらいまでを「とらばーな」と「バブリーナ」と
        「だんかい~ナ」という3段階に分けて、それぞれの傾向とジブン探しキーワ
        ードを探ろうとしています。道理でインタビューのとき、何年生まれだとか、
        いつ大学を卒業したとか、そんなことを細かく聞かれましたわ。そーゆーこと
        だったのね。

         私はバブリーナだな、88年入社なので。均等法の勢いに乗って、あっさり就
        職しました。T大何人、W大何人、K大何人ってな枠で、大学が選考してくる
        学生をほとんどスルーで入社させていた時代でした。そこで落とすと、翌年は
        その大学から人数を確保できなくなっちゃうというのが企業側の論理だった。
        大学の就職課に行って、「金融はどう?」「いやー、金融は(きっとシステム
        開発だから)ちょっと(コンピューター苦手~)」「じゃ、こっちは?」と言
        われた、その時点では全くいいも悪いもイメージのない企業に「はー、じゃ、
        それで」とお願いしたそれが、唯一の就職活動。
         均等法の影響で女性の技術職枠を広げた最初の年だったから、大学の就職課
        だって人数確保のために手当たり次第に声を掛けていたんだろうな。会社に入
        ったら、どこに行っても「へー、女の子!(が作業服を着てる)」と驚かれた。
        私自身、男だ女だという意識が欠落していたし、実際同じレベルで仕事をした
        んで、大卒の小生意気な女はものすごい煙たがられた。そのくせ100対1ぐらい
        の割合で女一人だったらモテるよね。大事にしてくれた人もいたし、セクハラ
        もたくさん受けました。私程度の女力でも武器になるんだったら最大限使って
        やると思って、イケイケ姉ちゃんの服をがんがん着てました。またそういうの、
        いっぱい売ってる時代だったのよ。ジュリアナでも踊ってたし。こうゆう服着
        てるだけでプラスになるんだったら利用しない手はないって、まーホント、考
        えることもやることも強気でバブリーナだったわよ。(遠い目)
         これでも同期の中では出世グループにいたんだよね。普通は最短2年で上が
        っていく職能ランクを1年で、続けて2度上がったから。同期入社の数が多か
        ったから(これもバブル時代の特徴)ポジションはなかったんだけど、「おま
        え、支店勤務だったら係長ってことだからな」と上司に言われて、なんか実感
        がなかったのを覚えています。

         「バブリーナなんて失礼な!」と思うけど、こうやって分類されるとくっき
        りと構造が浮き彫りにされてしまう。そうなのよ。時代の枠からはみ出すほど
        の異質さを持つ人間なんてほとんどいない。みんな時代とともに生きているん
        だと思います。ほんの少し年齢が違うだけで、それぞれの人生観は全然違うの
        かもしれない。それだけ、今、時代は動いている。

         私は、その後2回の出産を経て、「テープ起こし、フリーランス、在宅勤務」
        というところを選びました。

         会社を辞めたいと思ってから、「どんな職に就けるのか?」「会社の中で職
        転 する道はないのか?」「子供が保育園を出てからのほうがいいか?」「夫の
        転勤の可能性は?」「別れた場合はどうするか?」「ローン返済は可能か?」
        「自分の体調はもつか?」「職場に迷惑をかけないのはいつか?」「円満退職
        して、退職後も遊びに行けるような関係で辞められるか?」とか、本当にさま
        ざまなパラメーターを組み合わせて、「いかに生きるべきか」みたいなものを
        考えてきました。そのパラメーターの中に「専業主婦になる」というのが最初
        から入っていなかったのは笑えるけど。
         テープ起こしの通信講座を勉強して、速記事務所で在宅スタッフの内定をも
        らって、そして退職届を出すところまで3年もかかっています。あまりの用意
        周到さに自分で呆れてしまいます。会社員に転職していたらもう少し安住でき
        たんでしょうけど、フリーランスだと、今でも選択の毎日です。受注するか否
        かってのは、明日オンになるかオフになるかの選択だから。単価がいいかとか、
        難しい仕事かとか、やりたい仕事かとか、他の仕事とバッティングしていない
        かとか、仕事上の条件だけじゃなくて、それ以外のパラメーターもあぶり出し、
        それらにプライオリティーを付けていく。毎日、毎日。

         その選択作業で確立してきた、かなり揺るぎないものは、「仕事はただの仕
        事だよ」というものです。仕事は仕事。ある程度稼がないと生活できないから
        働くだけ。いっぱい儲ける人が偉い人なわけじゃないし、リストラされた人が
        無価値だなんて思わない。自分がその仕事をしなくても、だれかがやって社会
        は回っていく。
         さんざん考えて、用意周到に3年も準備して転職して、恥ずかしながら本で
        紹介していただくなんて機会にも恵まれて、結果、自分のライフバランスで仕
        事のプライオリティーを下げるというところに落ち着いたのはなんとも逆説的
        だけど、今のところそれが私の答えです。

         本の内容にも触れないとね。
         さまざまな職業の種類に圧倒されます。女性の再就職という観点から、身も
        蓋もなく選ばれたという実感がこもっています。こう列挙されると寒気すらあ
        りますね。あまたの職業からなぜこの50が選ばれたのかということを考えるだ
        けで、自分の立ち位置を自覚します。
         ライターの島沢さんとは時間延長して2時間以上も話し込んでしまい、すっ
        かり親近感も持ってしまった者としては、「島沢優子カミングアウト本」とし
        て、いすからずっこける思いで読みました。

         ついでに、なぜ今、東京ラブストーリーなのかというぐらいに、あちらこち
        らで今更東京ラブストーリーの再評価をしている文章に出会います。というか、
        赤名リカと関口サトミの再評価ですね。カンチの再評価なんてないもん。
         私は特に東ラブに深い思い入れは持っていないので、ここで何か発言すると
        どこかで読んだものの焼き直しになってしまうし、テープ起こしのメルマガで
        書くことでもないのでコメントはしないけど、再評価する時期にきたんだなと
        いう感慨はあります。

      


        === さくさく堂のテープ起こし業務日誌  号外 (2004/12/3)===

         専門家の依頼する学術目的のテープ起こしは、精神的にしんどい。「専門家
        のオーダーはメートルで、我々が全然知らないとか、少しばかり知っていると
        かいっても、どんぐりの身長が何ミリ違うというぐらいのものだ」と言った知
        人がいて、「では、テープ起こしとしてはプロでも、その分野での素人がミリ
        レベルの原稿を作る意義は?」と食ってかかったことがある。

         きょうは父の話。

         父が入院していたとき、主治医の説明を何回か聞いた。そのとき、この話を
        ふと思い出した。主治医の説明したい話はメートルであり、聞いているこちら
        の理解度はミリなのだと。
         もちろん主治医は医学的知識のない人に対する平易な説明を心掛けてくださ
        ったが、「なぜこの治療法にするのか」「なぜこの薬を選ぶのか」「この治療
        法の具体的リスクは」という部分について端折らざるを得ない専門的な内容が
        多くある感じが伝わってきた。インフォームドコンセントと言ったって、医学
        的知識のない、また身内の病気に冷静さを欠いている家族に説明するのはいろ
        いろ障害があるもんだなと思いながら聞いていた。
         私は医学関係は専門でないけれど、今年は数本起こしている。主治医の言っ
        た「キューセキビョーイン」は「急性期病院」、「ユウショーシンリョージョ」
        は「有床診療所」だということはわかった。それらはテープに出てきて知った
        言葉で、この仕事をしていなかったらわからなかった言葉。
         こんな単語わからなくたって、主治医の説明は何となく通じるので自慢する
        ほどのことでもないが、仕事で知った言葉が出てきて内心ニヤリとしてしまい、
        余裕につながった。こんなふうに仕事が役に立つこともあるんだな。ミリはミ
        リでも、一緒に聞いていた母や姉の理解度が3ミリ程度なら、私は8ミリぐら
        いはわかると思った。(って、一体どんな基準だよ) ありがたいことだ。
         自分より実力がはるかに上の人のレベルを推し量ることはできない。メート
        ルとミリではまだまだ雲泥の差があるけれども、主治医の語れなかった内容が
        メートルの分量がありそうだという予測はできた気がした。……だから、知識
        力の違いをまざまざと感じてしまうタイプの仕事は嫌なんだよ。

         父のがんは脳幹にも転移したので、「肺がんの呼吸器障害で苦しみながら死
        ぬよりは、一気に心停止でポックリ逝ってくれたら、それはそれでご本人は楽
        かもしれません」という率直な説明に、私は好感を持った。

         父の入院が決まってから、病院へ行ったり、実家へ行ったりということが突
        発的に何回かあったので、全体的な仕事量も減らしていたし、短納期は受けな
        いことにしていた。その点ではフリーでよかったと思う。
         それでも、仕事に全く影響がなかったというわけではない。父が余命半年と
        知らされた日に、2時間分の入力を全部消してしまうという前代未聞のポカを
        やってしまった。「2時間の作業時間」ではなくて「2時間の録音時間」。丸
        々二日分の入力データだ。ファイルの書式をコピーするときに、新ファイルと
        旧ファイルを間違えた。そんなミスやったことないからといって、バックアッ
        プをとっていなかった自分のせいだから、誰にも文句は言えない。納期はまだ
        3日残っていたから、パニックにもならなかったし、泣きもわめきもしなかっ
        た。もう一度、二日間作業すればいいだけのことだ。ただ、父の病状がはっき
        りした日にそんなバカなことをやってしまったのが、あまりにも陳腐でクサい
        と思った。
         追い打ちをかけるように、「さあ、最初から入力し直し」と思ったら、テー
        プが絡まっていた。テープの絡まり事故も4年目にして初めての経験だった。
        もちろんダビングだったから事なきを得たけど、なんだかもうどうでもいい気
        分になってしまった。

         結局3カ月であっという間に父は逝ってしまったけれど、同業のたくさんの
        仲間にかなり支えていただいた。年に何回かは会うけれど、基本的にはネット
        上の付き合いの仲間。メールだけのやりとりでつながっている仲間。それでも、
        「同志」とか「戦友」みたいな仲間。みんな、ありがとう。

       


        === さくさく堂のテープ起こし業務日誌  第48号 (2004/12/17)===

        ◆ お客様の話 その1

         この前鍾乳洞に行ったら、ボランティアのガイドさんが薄明かりの中に立っ
        ていました。今どきテープじゃないなんて珍しくて、少しうれしい。でも、言
        っていることは「この岩はカーテンのようなひだができており、カーテン岩と
        呼ばれています」とかっていうお決まりの文句。じゃあ、テープでもいいじゃ
        ん、とまでは思わなかったけど、毎日同じ説明ばかりでつまらないんだろうガ
        イドさんの声は抑揚がなく、あんまり興味をそそるものではなかった、という
        のが正直なところ。

         そんなとき、皆さんは何を思いますか……。

         私はね、ちょっとからかいたくなる。
        「最初に探険した人はこんな階段もなかったし、真っ暗だったんですよねえ。
        真っ暗だったら怖いですよねー。ここって停電になることないんですか」
        「たまにあるんですよ、年に何回か」
        「うわっ マジですか!」

         きっとガイドの人は、その鍾乳洞に関することをたくさん知ってるんですよ。
        普段はレコーダーみたいに同じことしか説明しないけれど、こっちが突っつく
        とうれしそうに返してくれたりします。いつもうまくいくわけじゃないけれど、
        上手にノせられると、面白いことをいっぱいしゃべってくれることがある。
         テープみたいな声じゃなくて、生身の人間としゃべりたいし、裏話とか小咄
        とか絶対知ってるんだろうと思うと、引き出したくってウズウズする。それは
        もう、ガイドさんと勝負!みたいな感覚に近い。

         ディズニーランドみたいに徹底的に訓練されているところでもそうです。
        「数千年前の遺跡だー」ってお兄さんが興奮しているのに、
        「ここってまだ20周年じゃん」なんて白ける友達がいるのよ。ばかだよね。
        「ワニが襲ってきたー。あぶなーーーーーーい!」って言われたら、
        「みんな!逃げろーーーー!」って伏せてあげなきゃ。次にお兄さんが言う
        「今度はこっちだぁーーーー!」って声のノリが違ってくるんだから。

         こんなこともありました。コンサートに行ったとき、開始前にスタッフらし
        き方が舞台に出てきて、「実はお客様の人数が少ないと、歌手がとても残念が
        っています。きょうは人数は少ないですが、どうぞ皆様、いつもの倍の拍手を
        お願いします」って。外タレで日本語がわからないからって、そんなこと言っ
        ていいのか。あはは。
         実力のある素敵な歌手だったから、偽りの拍手をしたわけじゃないんですけ
        ど、やっぱりその言葉は効いていて、手が痛くなるほど拍手しちゃった。そう
        したら、思いがけない大きな拍手に、その歌手泣き出したんです。「こんなに
        素敵なお客さんにすごい感激した。きょうみたいにいいお客さんは初めてだ
        (さくさく堂意訳)」って。
         後半さらにいいビブラートを聴かせてくれました。

         どんなお客に対しても、いつも同じレベルのものを提供できるのがプロでし
        ょう。そういうプロ側の意識は置いておいて、でもいいお客のときにより素晴
        らしいパフォーマンスができるというのも事実ですよね。自分が行くそのとき
        が、素晴らしいパフォーマンスであってほしい。それならこっちも努力しなく
        ちゃ。プロのよりよい技を、心意気を引き出せる、いい客になりたいんです。
         「客の資質」ってあるんです。

        ……と、テープ起こしとは全く関係ない話を長々とし、これからやっとさくさ
        く堂のお客さんの話になりますが、続きは次回。


        ◆ ネットで存在するということ

         前号は、メルマガとしてアップする内容でも、方向性でも、文体でもなかっ
        たので、号外とさせていただきました。たくさんの方からお悔やみのメールを
        いただきました。お気遣いいただき、大変うれしゅうございました。
         そんな中に、昔のボーイフレンドからのメールもありました。メルマガを書
        いて得た成果?の中で、一番うれしい出来事でした。ああ、しょうもない。

         サイトには本名を入れています。商売サイトだから。私がお客だったら、名
        前もわからない人に仕事を託さないもの。
         それとは別な話で、サイトを開く前、切実にインターネットという世界に自
        分の住所が欲しかったんですね。インターネットで検索できない自分は存在し
        ていないような不安感がちょっとあった。それは行き過ぎた感情で、同業者が
        次々とサイトを立ち上げる中、明らかに煽られていたんでしょうが、仕事に関
        係なく、「私はここにいるんだー」って自己主張するために本名を載せたかっ
        た。

         皆さんは、昔の友人の名前を検索したことがありますか。私はたまにやる。
        今、何してんのかな?って。同姓同名が多い名前じゃ検索自体が難しいし、ヒ
        ットしない友人も多いけど。そんなふうにして知り合いが私を検索したときに、
        見つけてもらえる自分になりたかった。
         それで、元ボーイフレンドが見つけてくれたんだもんね、そりゃうれしいさ。
        で、その後どうしたか? これはテープ起こしのメルマガなので、こっから先
        の話は次回には続かない。

         そういえば、うちのダーリンの名前を検索してみたら、あやしげなところに
        載っていたから、後で笑ってやった。当人は知っていたので、笑い甲斐がなか
        った。残念!

       


        === さくさく堂のテープ起こし業務日誌  第49号 (2005/1/5)===

        ◆ 本年最初の計画

          皆様、旧年中は特別のお引き立てを賜り、ありがとうございました。
                本年もどうぞよろしくお願いします。


         とりあえずですね、「お客様の話」が完結しないまま年を越してしまいまし
        て、それが気になって気になって……。去年の総括とかことしの目標とかは後
        回しにして(なーんつってる間にやらなかったりして)、1個だけ計画を書き
        ますね。メルマガのレイアウトを変えます。もしかしたら試行錯誤で変わって
        いくかもしれないけど、もすこし読みやすい形を模索していきたいと思います。
         それでは、「お客様の話 その2」へGo!


        ◆ お客様の話 その2

         その仕事はインタビューの記録でした。用途は社内記録用。

         お客様のご注文は「最小限のケバとり程度の素起こし」

         「ケバとりは結構読みにくい、あまり文章になっていないレベルですよ」と
        いう対応をしましたが、「わかってるけど、それでいい」という回答だったの
        で、深追いせずにお客様のご依頼どおりに仕上げました。最初のお取引で、こ
        ちらが信用されていない部分もあるでしょうしね。

         届いたテープは、まあまあの録音のものと若干聞こえにくいものと二つ。

         聞こえないほうの聴取不能部分はどうするかご相談したら、適宜文章をつな
        げたほうがよいということだったので、文脈的につながるように聴取不能部分
        を削って、あたかも全部聞こえたように仕上げました。

         それで、どんな評価をいただいたと思いますか。

         聞こえるほうに対しては「大変な再現度」という評価を、そして聞こえない
        でつなげたほうに対しては「この程度でもよかったかも」という評価をいただ
        いきました。

         これにはこちらも苦笑いでしたよ。
         だから、ケバとりじゃ読みにくいって最初に言ったでしょ。

         でも、このコミュニケーションは結構重大なヒントを隠しています。お客様
        の持っている「最小限のケバとり」のイメージが、実はお客様の求めているも
        のではなかったということがこちらに伝わるわけです。
         その後おかげさまで2回目の受注をいただきましたが、その際に「言葉の加
        除をせずに、もう少し文章にさせていただきますね」という禅問答みたいな対
        応ができました。あはは、われながら、なんちゅー日本語だ。

         さて、2回目のテープでは、インタビュアーとしてのご自分の声について、
        「自分の話している部分を読むのは恥ずかしいものですね」というコメントが
        きたので、「それじゃ、インタビュアー部分はもう少し強めに書き言葉にしま
        すね」ということをご提案しました。

         それから、「"キャノン"ではなく、ちゃんと"キヤノン"と書いてあって驚い
        た」とも言われました。お褒めいただくのはシンプルにうれしいですが、そう
        いうことじゃなくて、このお客様は社名や人名には気を遣う方だってのが、こ
        れでわかることが大事です。


            :::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::    


         話はすっ飛びますが、片仮名は表記の揺れが大きいので、固有名詞は特に注
        意が必要です。

            ケイディーディーアイ
            エヌ・ティ・ティ・ドコモ

        音引き(ー)や中黒(・)が入るか入らないか、社名には正解があります。自
        分でよく知っていると思う言葉ほど油断しがちですが、必ず公式ホームページ
        などで確認します。って、よく忘れるんだよねー、これが。


            :::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::    


         閑話休題。
         こうしろああしろと、たくさんご注文のあるお客様ではないんですが、やり
        とりの中でちょこっちょこっと、「この程度でも……」「自分の部分は……」
        と、ほんの一言か二言のコメントがある。「大変な再現度」やら「キヤノンと
        書いてあって……」というお褒めの言葉もちゃんと添えてある。
         たったそれだけなんです。それでも、起こすほうとしては「じゃ、こうした
        ほうがいいかな」というインスピレーションが湧いてくる。本当にお客様に上
        手にノせられた感があって、ものすごく心地よいお客様です。

         プロとして、どんなお客様だろうといい原稿をお出しするのは当たり前です。
        でも、「頑張っちゃおう、張り切っちゃおう」と思ってしまうお客様がいるの
        も事実。テープ起こしはすべてオーダーメイドです。話し言葉には二つとして
        同じものはない。ノせてくれたお客様とノせてくださらないお客様では原稿の
        出来が違う。
         いや、プロとしてこんなこと言っちゃいけないのはわかっていますけど、そ
        れでもあえて言っちゃうと、


            どうか、お客様、私をノせてください。

       

        === さくさく堂のテープ起こし業務日誌  第50号 (2005/1/21)===


            1月中にやっておかなきゃいけないことがあるんですよ。
                   恒例 ことしの抱負(笑)。


            :::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::   


         まず、去年の総括からね。去年の目標は、

            ルーチンを増やす

        でした。ふざけた目標ですね。今だから言えますが、去年は本当に仕事を続け
        ていくだけで精いっぱいで、この状況をなんとかしのごうという「そのこころ」
        がこれには隠されています。なんとかしのげたし、売り上げも伸びたようなの
        で、ある意味目標は達成したかなあ。

         ことしも引き続き絶好調というわけにはいかないと思うので、さらにすんば
        らしい目標を見つけました。「ルーチンを増やす」ったって具体的な作業とし
        てはよくわからんですよね。いいこと思い付いちゃったのよ。
         ことしの目標は、

            残業しない、休日は休む

        です。どうだ、去年より明確だろう。こういうこと思い付くとすぐウットリし
        ちゃうのよね。あたしってすごいわ~。

         思い付いた途端、俄然やる気が出ちゃって、夜中に仕事しちゃったりしてま
        す。だいたいね、知り合いにはメールの返信時間で何時にパソコンの前にいる
        かはすぐばれますからねー。(そもそも、この50号を何時に配信しているんだ、
        あたしは)


            :::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::   


         個人事業主でも会社経営者でも、自分で事業を営む人っていうのは、いくら
        稼いでいるかという尺度でものを見てしまうから、「稼ぐ人=偉い」になっち
        ゃうダスよ。でも、テープ起こしに関して言えば、正直肉体労働だから、「稼
        ぐ=長時間労働」になりがちです。
         ここで魔の三段論法が発動し、「長時間労働=偉い」というすごい錯覚に陥
        るんだ。

         徹夜したとか、すごい単納期を仕上げたとか、そういう武勇伝を聞くたびに、
        すごいなー、かっこいいなー、私もやりたいなーと思うんですが、できない。
        体力がついていかない。やってしまって犠牲にするものが大きい。ババ臭い。

         去年は本当に皆さんにはご迷惑をかけました。お断りした仕事もあったし、
        途中で助けていただいた仕事もありました。
         そういうご迷惑をかけるとメンタルな部分にも響くわけで、コンディション
        を整えるのは大変だったけれど、一方で人の情けに触れるのはうれしくてね、
        案外悪い年でもなかったと思います。

         ことしは私のほうから皆さんに、何かお返しできる年にしたいなあ。目標と
        いうんじゃないけれど、お返しできる余裕を持ちたいです。
         そのためにも、残業しない、休日は休む!だな。はっ!


            :::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::   


        もう一つ、原稿について考えていることがあります。これはことしという限定
        じゃなく、今後の方向性ということですけれど。
         それは次回に書きますね。


       

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