委譲から移譲へ
私が地方議会の議事録を作成していたのは2001年くらいなのですが、
そのときは既に「権限移譲」の字を使えと教えられました。
こういう行政用語はたくさんあって、しかも自治体ごとに微妙に違っていたので、
手作りの「〇〇市用語集」というのが作られていて、
それと照らし合わせて作っていました。
ちょうど「障害者→障がい者」の変更をどこどこの市が採用したというニュースが出ていた時代で、
「子供→子ども」とか人権に配慮した表記も多く、
「権限委譲→権限移譲」というのも、ふーん、なんとなくわかる、
とあまり深く考えずに受け止めていました。
最近、地方分権改革関係の仕事をしているのですが、
第1期の地方分権推進委員会(1995年~2001年)が出した勧告やその頃の資料を見ていたら、
90年代は「委譲」の字を使っているんです。
でも、第2期の地方分権改革推進委員会(2007年~2009年)では「移譲」になっている。
それでクライアントに、
「2000年くらいに『委譲』から『移譲』に変えようという出来事が何かありましたか」
と聞いてみました。
この時期、地方分権が現実的に進む中で、
より自律性の高い(立法権を持つ)地方分権を目指して、
用語の変更が行なわれたようですね。
「権限の委譲(delegation of power)」ではなく、
「権限の移譲(devolution of power)」だと。
英語概念の翻訳語として、新しい熟語を当てたということでしょう。
立法権を持つ地方団体のことを地方公共団体、地方自治体ではなく、
「地方政府(local government)」と表現すると雰囲気が伝わりますが、
「地方政府」という言い方のほうはあまり普及していませんね。
「権限移譲」は比較政治学の岩崎美紀子さんが提唱されたそうですが、
これについては総務省(まだ自治省の時代か?)が乗っかった。
「これからは"移譲" でいきます」と言えば、
全国の自治体はあっと言う間に「権限移譲」で統一される。
この地方分権の用語は、とても中央集権的な力で普及したように思います。