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制作と製作

一般的には、

 

【制作】 芸術的・ソフト的なものをつくること   

【製作】 具体的・実用的なものをつくること 

ですが、この二つ、著作権が絡むともっと要注意単語になります。

   スピルバーグセイサク総指揮   

というのを映画の広告でよく見掛けますが、その場合は、「スピルバーグ製作総指揮」です。

映画は芸術的・ソフト的なものをつくること」だと思うのに、「制作」ではないんです。なぜでしょうか。

各表記辞書を見てみます。

 

『記者ハンドブック』(共同通信社)

〔注〕明確な区別はつかないが映画、新聞、放送番組、CD、ビデオなどは内容によって使い分ける。固有名詞に注意する。

 

『用字用語ブック』(時事通信社)

[注]映画・演劇・新聞・放送番組・CD、ビデオなどは「制作・製作」が混用されている。固有名詞に注意。

 

『朝日新聞の用語の手引き』

〈注〉映画・演劇・新聞・放送番組などでは「制作・製作」が混用されている

 

『毎日新聞用語集』

制作 絵画・工芸品の制作、ビデオ・放送番組の制作〈「製作」も使う

製作 映画の製作、器具・機械の製作、新聞製作〈「制作」も使う

 

表記辞書がこんな内容でいいのかという、ざっくりとした説明です。

こちらはわかりやすい。

 

『用字用例辞典』

制作 映画・演劇・絵画・彫刻・放送番組-の制作 (注)経営面の責任者を示す場合は「製作」

 

たくさん出てくる「固有名詞に注意」は、「○○セイサク会社」といった団体はたくさんあるので、どちらの字を使っているかちゃんと調べましょう、という意味です。

さて、辞書でも映画や放送番組などは「制作」の字が使われると書かれているのに、なぜ「スピルバーグ製作総指揮」なのでしょうか。この理由は著作権法に書かれています。

第2条

 6.レコード製作  レコードに固定されている音を最初に固定した者をいう。

10.映画製作  映画の著作物の製作に発意と責任を有する者をいう。

 なぜかわかりませんが、著作権法上は「製作者」という文字があてられています。

つまり、企画を立てて金を集めてきた人が「製作者」で、その人が「制作者」に映画をつくらせるのです。

  制作・著作 NHK

というのもよく見掛けますね。あれは「NHKは制作者でもあり(実際に作って)、製作者でもある(著作権も持っている」という意味です。

映画で言えば、プロデューサーが「製作者」に当たります。スピルバーグは映画プロデューサーなので、「製作総指揮」です。著作権を持つか持たないかの重要な違いなので、音楽や映画業界の皆様は、厳密にこの字を使い分けています。決して混用ではありません。

製作者である映画プロデューサーは著作権を持っているけれど、制作者たる映画監督は著作権を持っていません。普通の感覚では、その映画を作ったのは映画監督だと思いますが、著作権法ではとても弱い権利しかありません。

もう少しぶっちゃけて言うと、実際に作った人ではなく、お金を出した人のところにいわゆる印税が入る仕組みになっているのです。元手がなければ映画そのものが作れないのは確かですが、ずっと続く映画業界の大きな懸案事項になっています。

この字の書き分けに非常に慎重になるのが、ちょっと伝わったでしょうか。

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