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『さくさく堂のテープ起こし業務日誌』 バックナンバー 1


        === さくさく堂のテープ起こし業務日誌  創刊号 (2003/5/12)===

        ◆ごあいさつ
         皆様、はじめまして。さくさく堂です。
         この原稿を書いている4月29日の時点で、メルマガ登録数が200になりました。
        最初からこんなに多くの皆様に読んでいただけるとは全く想像していなかった
        ので、最初は大喜びしていましたが、だんだん怖くなってきたところです。
         永く愛されるメルマガを目指し、毎回丁寧に書いていきたいと思います。ど
        うぞよろしくお願いいたします。

        ◆NTTグループ3カ年計画
         4月23日にNTTグループの3カ年計画が発表されました。創刊号にふさわ
        しくない、あまりにも周辺の話題で恐縮ですが、テレワーカーにはネットワー
        ク環境は気になるところなので、旬なうちにその話題から。
         この前の3カ年計画から絶対3年たってないと思って調べたら、ありました
        よん、2002年発表の3カ年計画と2001年発表の3カ年計画が。おいおい、そ
        れじゃ単年度計画だろう……。5カ年計画を作って、5年放っておく人たちよ
        りましなのかしらん? それにしても、普通の感覚だとやっぱり変よ。
         3年分の3カ年計画(変な言い回し)を見比べてみると、今年のは「光やっ
        たるでー」という意気込みが感じられます。去年までは「ADSLでもうかる
        ならそれでもいいんだけど……」という優柔不断なところがあって、リストラ
        の話もメインでした。ネットワークビジネス全般でもうけようという色気もあ
        るし、どこへ向かっていこうとしているのか見えない感じが強かったのですが、
        「やっぱ光だよ」という路線にやっとなってくれました。よっしゃ、よっしゃ。
        あんたがインフラ作らんで、誰が作るんじゃい。さくさく堂はNTTのインフ
        ラ事業を応援しています。(えっ、あんたに応援されても?)

         今年の3カ年計画のサブタイトルは「レゾナントコミュニケーション環境の
        早期実現に向けて」です。レゾナントってなんじゃらほい、ユビキタスとどう
        違うんじゃいと思わず突っ込んでしまう私ですが、バズワードの一種と言って
        もいいかもしれません。
         「バズワード」は「専門用語めいた流行語」という意味で、仕事のテープで
        知った言葉です。どちらかというと否定的な意味で使われることが多い言葉だ
        と思いますが、これが大好きな人たちというのが世の中にいるんですね。ええ、
        多分。官僚やエコノミスト、このNTTの3カ年計画を作成した人もきっとそ
        う。自分が考えていることは全く新しい概念なのだという印象を強くするため
        に、キーワード的にバズワードを使用することは有効な手段だと思っているん
        ですね。
         それは一理あると思いますが、多用すると文意がわかりにくくなってしまう
        どころか、日本語ですらなくなってしまいそうです。我々テープ起こし屋にと
        っては、善し悪しの問題とは関係なく、少なくとも日々の試練にはなります。
        話者が新語を使ったとき、その言葉の意味、表記、用法の確認はどうしてもネ
        ット検索になり、新語はなかなかヒットしない、情報の信憑性が低いというこ
        とになるからです。

         3カ年計画の最後のほうに、「用語解説」がついています。解説しなきゃい
        けない用語だらけの文章なんですね。ちょっとした用語集になると思いますの
        で、IT関係のテープを起こす方はちらっと見ておいてもいいかもしれません。
         2001年の用語、2002年の用語を見ると、「ブロードバンド」や「ユビキタス」
        のように、今ではだいぶ認知されて注釈なしで使われる言葉もあり、IT業界
        の時代の流れの速さを感じます。2003年版に載った言葉たちはバズワードで終
        わるでしょうか、辞書に載る言葉になるでしょうか。
         私からのはなむけの言葉は
        「君は生き残ることができるか?」(ヲタクですみません)

         最後にちょっとだけテープ起こしに寄った話をしたいと思います。NTTと
        いうのは正式名称ではありません。話者が「NTT」と言えば、そのまま「N
        TT」と起こすことが普通ですが、クライアントから「社名は正式名称で」と
        いう指示があれば、「日本電信電話株式会社」にしなければなりません。

         次回は、「議会で使われる要注意の言葉たち」の予定です。(これが本当は創
        刊号のつもりでした)
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        === さくさく堂のテープ起こし業務日誌  第2号 (2003/5/20)===

        ◆議会で使われる要注意な言葉たち(1)
         それは速記事務所で修行し始めたころの話。仕事は地方議会の議事録。テー
        プの最初の言葉からわからなかった。

        議長 休憩ゼンに引き続き、会議を開きます。

        "ゼン"って"前"かな。普通は休憩"マエ"って言うよな。まあ、いいや、後で調
        べよう……と思っているところに部長さん登場。
        「あのー、不明な言葉とか聞き取れなかったときなんかは、どういう処理をし
        たらいいんですか?」
        「えっ、もうわかんない言葉あったの?」
        ……撃沈。
         その後過去の議事録を見て、「休憩前」で正しいことがわかったけど、かよ
        うに議会には独特な言い回しがあります。議事録作成業務をするときは過去の
        議事録を参考にしながら作るので、この独特な言葉は大抵判明するんですが、
        やっかいなのは同音異義語があるものです。
         今回は、わかっちゃいてもうっかり変換間違いやすい議会の言葉たちを紹介
        します。

        清算/精算
         "セイサン"という言葉はほかにもいっぱいありますが、お金関係でこの2つ
        は間違いやすいです。決算報告のとき、最終的な細かい計算ができて着地点が
        はっきりしたときは"精算"。貸し借りなく、きれいさっぱり後始末ができたと
        きは"清算"。

        付託/負託
         "負託"は、首長の所信表明のときは思い出して。「市民の皆様の負託を受け
        て……」というときに出てきます。

        推薦/推選
         "推選"単独ではあまり使いません。これは議長等の選出の際、「指名推選」
        するときに使う言葉です。"しめいすいせん"という熟語で変換すれば、日本語
        変換ソフトがちゃんと"推選"のほうを選んでくれます。

        配付/配布
         お手元に配る資料は"配付"、市内全域に配るチラシは"配布"。
        (私は「公民館に案内をハイフ」っていうフレーズのとき、結構迷った)

        広報/公報
         "公報"も単独ではあまり使いません。これも熟語で変換するようにすればい
        いです。「選挙公報」です。

        ほか/外
         "他"は使いません。通常は"ほか"。議案関係のときだけ「○○外3議案」
        「○○君外3名」という使い方をします。

        ……って、ずっとやっているとメルマガとしてつまらないので、この辺にして
        おきます。そのうち、第2弾を企画しますね。

         これらの表記の仕方は、『標準用字用例辞典』(財団法人 日本速記協会発
        行)に則っています。完全にこのとおり表記しているのが国会。地方自治体の
        議会には、それぞれ若干ローカルルールがあります。これはそれなりにやっか
        い。私は1自治体をメインに、10以上の自治体の議事録を単発で起こすので、
        久しぶりの議会の場合は、まず過去の議事録で用字をチェックするところから
        仕事が始まります。

        ◆中部の熱い日、あるいは次回の予告
         GWに仕事仲間の皆さんに会いに名古屋に行きました。滞在時間は9時間弱。
        新幹線で日帰り。日本は狭いです。中部の皆さん、こういう機会を作ってくだ
        さってありがとうございました。

         SOHOの構造的な問題点の1つは学習の機会がないことです。独学できる
        人だけが生き残る。一方、入力にパソコンを使い、字句の検索業務が多い起こ
        し屋はインターネットのヘビーユーザーです。自然と、会ったことはないのに
        情報交換からお悩み相談までする知り合いが日本全国にできてきます。そうい
        う人たちと年に何回かお会いします。ネットで親しくなればなるほど、たまに
        オフラインで会っておくことは、健全な人間関係を継続させるために結構重要
        です。

         多くの人がフリーランスで、ライバルとも言える者同士が和気あいあいとや
        っている姿は、ある面から見ると不気味ですが、企業の業務提携に似ています
        かね。お互いにメリットがないとうまくいかない。だから、信頼し、助け合う
        こともあるけれど、緊張感のあるおつきあいをしています。

         名古屋ではいろいろ興味深い話が出ました。その中でクライアントへのメー
        ルの書き方についての話があったので、次回はメールのテクニックについて話
        をしたいと思います。
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        === さくさく堂のテープ起こし業務日誌  第3号 (2003/5/28)===

        ◆クライアントからメールがこない
         先日、名古屋で仕事仲間と会ったときにこんな話がありました。あるクライ
        アントに質問のメールを送ったがなかなか返事がこない。納品をした後も「届
        いた」という返事が遅く、ちょっとそのクライアントに不信感を持ってしまっ
        たと。
         確かに質問がかえってこないとこちらは作業が進みませんし、クライアント
        がちょっとルーズな可能性はあるんですが、私はそうじゃない可能性のほうが
        高いように思います。

         この話をする前に、テープ起こし屋の層の話をしたいと思いますが、ここ数
        年の参入者は主婦層が多いですね。結婚・出産で退職し、子育て中なので表に
        出るのは難しい。(注1) 家にダンナのパソコンがある。これを使って仕事が
        できないだろうか。ワープロだったら独身時代に会社でちょっとやっていたし
        ……という層です。いや、他人事のように書いている私も主婦ですが。

         そういう人たちは会社でインターネットを使ったことがないのでなかなか想
        像できないのですが、バリバリ働いている人には1日にメールが100件もきます。
        社内からも社外からも、決裁とか稟議書とか「年末調整の提出期限」とか「人
        事異動速報」とか「通勤費の計算方法の変更について」とか「創立記念パーテ
        ィのご案内」とか「この前の○○の件はこうしたい。至急ご連絡を」……、も
        ういっぱい。もちろん会社のパソコンですから、基本的に遊びのメールはあり
        ません。(多分あるけど) 風邪で何日か会社を休むと、「メールサーバーがい
        っぱいになってメールが消えちゃうよ」なんて脅しの電話が入ったりする人も
        います。
         1日100件のメールを受け取る人は、上から順番に読んだりなんかしません。
        一覧をざーっと見て、重要そうなところから読んでいきます。最初だけチラッ
        と読んで、「後で読めばいいや」と後回しにするものもありますし、そのまま放
        っておいて「あれ、期限過ぎちゃった」とゴミ箱行きのメールもたくさんあり
        ます。

         その100件の中のたった1通が自分の質問メールなのです。まず一番重要なメ
        ールであるはずがないし、返信が遅くなるのなんか当然と思ったほうがいいで
        す。すぐには読んでもらえないという想定で仕事をすべきです。その上で大切
        なのは、いかに自分をアピールし、早めに読んでもらえるようなメールを出す
        かということです。
         最近はウイルス感染防止のためプレビュー画面を表示していない人が多いの
        で、工夫するところはアカウントと件名になります。

        ◆アカウントの個性
         まず、メーラーにアカウントがズラッと並んだ状態で、字を読む前に『形』
        で、「おっ、○○さんからメールがきてる」と識別してもらえるように、アカ
        ウントに個性を持たせること。アカウントは何も設定していないとアドレスに
        なりますが、これがプロバイダーでもらったアドレスのままだったりすると意
        味のない文字列になっています。無意味な文字列から誰々さんを認識するのは
        大変な作業です。アカウントは設定したほうがいいと思います。
         ちなみに私自身は「SakuSaku-DO」にしているのですが、ハイフンを入れた
        り最後を大文字にしたりして変化を持たせています。

        ◆本文は読まなくていい
         件名については、本文を読まなくても内容がある程度わかるものがいいです。
        間違っても「こんにちは」とか「Wordについて」なんていう、誰が書いたかも
        何が書いてあるかも想像できない件名はやめましょう。といっても、長い件名
        は最後まで表示されませんから、重要なことは手前に、短く、端的に書くこと
        です。ちょっとおもしろかったらなおいいです。もちろんビジネスメールとし
        ての品格を失わないようにしてください。ナイスな件名が考えらなかったら、
        メールは出さないぐらいの覚悟を持つことです。
         こんなこと考えてると、本文よりも時間がかかりそうですね。それでいいの
        です。

         例えば次のようなメールをもらったとします。

           To:A様,B様,C様
           件名:明日の待ち合わせの件
           本文:東京駅に10時に集合しますので、出欠をご連絡ください。

        これを単純に返信すると、件名は「Re:明日の待ち合わせの件」になります。
        これでは本文を見ないと、行くのか行かないのかわかりませんね。この件名を
        「明日の待ち合わせOK(B)」と書いたら、相手は本文を読まないで済みます
        し、誰の返事かもすぐわかります。また、「【時間変更依頼】東京駅待ち合わせ
        (A)」なんて書くとどうでしょう。急いで対応してくれそうですよね。
         件名については、いろんなDM(ダイレクトメール)も参考になります。最
        初から広告だとわかっている。その本文を開かせるためには件名が勝負なので、
        どれもいろいろ工夫しています。そうやって見るとDMも楽しいです。

        ◆テクニックより大切なもの
         こういうテクニックは加減が難しいです。「なかなか工夫してるな」と思わ
        れるか、「うざい」と思われるかのラインは人によって違います。例えばアカ
        ウントを「■さくさく堂■」なんてしたら確かに目立ちますが、まあ、嫌う人
        もいるでしょう。(私は嫌い)
         結局どんなに工夫をしたところで、仕事でつながっている相手に仕事そのも
        ので評価してもらっていない場合は、メールの書き方のテクニックだけ装って
        も「こんなことやる前に仕事しろ!」と思われておしまいなんですね。本業第
        一です。
         もう一つ大事なことは、テクニックを工夫する根底に、「負担にならないよ
        うに」「手早く処理できるように」という相手への気配り、思いやりを持つこ
        とだと思います。メールは文字だけのコミュニケーションですが、怖いことに
        文字だけでなく、思いやりも思い上がりも一緒に相手に運びます。心を込めて
        書かないメールは、相手の心まで絶対に届きません。(注2)
         思いやりこそが一番の自己アピールかもしれません。

        ◆おまけ
        注1:私は全然そう思っていませんけどね。
        注2:ラブレターじゃないから、ビジネスメールの書式で書いてね。

        ◆次回の予告
         そろそろ「親指シフト地獄の特訓(ウソ)」なんて書くかもしれません。
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        === さくさく堂のテープ起こし業務日誌  第4号 (2003/6/5)===

         お気づきの方もいらっしゃると思いますが、隔週刊の発行とうたっているわ
        りに、もっと早いペースで発行しています。6月は繁忙期。本業で忙しくなっ
        てペースが落ちるかもしれませんが、これからもできるだけ早いペースで発行
        していきたいと思います。

         廿里美さんの『月刊 在宅入力者』が復刊しました。リニューアルした『ザ
        イニュー』は以前にも増しておもしろかったので、まぐまぐにアップしていた
        4号の内容を変更して感想を書いてみたいと思います。

        ◆『月刊 在宅入力者』考
         『ザイニュー』は廿さんが個人で出している雑誌で、主婦系在宅ワーカーと
        ワーカー予備軍の福音書とも言うべき雑誌です。個人で月刊誌を出すのはやは
        り大変で、それもあって廃刊になったのかと思っていたら、案外早く復刊しま
        した。まあ、言いたいことがとにかくたくさんある人なのです(きっと)。復
        刊するに当たってスタッフを数名募集し、編集体制を強化しています。今まで
        も、寄稿やイラストなどで何人かの人と作っていましたが、今度はきちんと編
        集の組織ができました。その部分が今後どういうふうに反映していくか、楽し
        みにしています。復刊後最初の第13号は、廿さんの思いがギューッと詰まった
        号になっています。

         廿さんの経歴で特筆すべきは、入力請負会社のスタッフにいたということで
        す。そこで在宅ワーカーへ発注する側の立場を経験されています。実際、休刊
        前は発注側の経験がベースになった記事が多いです。
         在宅ワーカーは、仕事の発注者、さらにもっと大元の仕事の発生場所をよく
        知らないことが多いです。全体の業務の中で、前後を知らなくてもできる部分
        だから外注されるとも言えます。メールや宅配便で仕事がきて、またメールや
        宅配便で返すというやり方が多く、発注者に会ったことがないケースも多々あ
        ります。こういう現状で、発注者がワーカーに何を求めているのか、そこを知
        っている廿さんの視点というのは貴重です。
         もう一つ、新しい経歴として、SOHOWORKネットのオンライン講座の講師を
        始めたことも大きいと思っています。ここで、普通だったらなかなか知り合え
        ない大量の在宅ワーカーとワーカー予備軍と交流をするようになりました。復
        刊後の一読後の印象は、「発注側と受注側の双方に対して、より事情通になっ
        た」というものです。いろんなタイプの発注者がいて、いろんなタイプの受注
        者がいる。それがきちんと視野に入っていて、対象とするターゲットがよく見
        えている、そういう印象を強く持ちました。私もSOHOの現場にいるので、
        その辺の感覚はリアルに伝わってきます。

         どんどん新しいことを始め、新しい仕事が次の仕事を呼ぶという廿さんのビ
        ジネススタイルは、バリバリのアントレプレナー型にみえます。「ファンです」
        という人もたくさんいます。でも、廿さんの魅力は、そのカリスマ性のなさだ
        と私は思っています。
         『ザイニュー』にはメンタル面のことも書いてあります。真意を解釈すると
        結構きついことが書いてあったりするのですが、決して「そんな考え方じゃ、
        SOHOになんかなれない」とは漂ってこない。ただひょうひょうと「私は
        こうした」と書いてあるだけなのです。
         廿さんは、雑誌以前から『テープ起こしてんやわんや』というメルマガを出
        されていました。(現在は廃刊しています) 私がテープ起こしを始めたばか
        りのころお話しする機会があって、「メルマガを出したいと思うけど、テーマ
        が決まらない。『てんやわんや』があるのでテープ起こしではちょっと……」
        と言ったら、やはりひょうひょうと「別にテープ起こしのメルマガが2つあっ
        てもいいんじゃないですか」と答えていました。そういうせりふが何のてらい
        もなく出てくるのが、廿さんのすごいところだと思っています。
         私はメルマガを出すまでに2年間の準備期間を要しましたが(ただもたもた
        していただけですが)、このせりふがあったからこそ実際に出すところまでた
        どり着けたのかもしれません。

        ◆次回の予告
         今度こそ親指シフトの話をします。

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        === さくさく堂のテープ起こし業務日誌  第5号 (2003/6/13)===

        ◆うれしくも眠い話
         繁忙期に入って、1日1時間ペースで仕事が入ってきました。しかも週末も
        ちゃんと作業日としてカウントして。オニ!
         そこへ半年前に名刺を渡した方から、「テープ起こしを探している人がいて、
        紹介したい」という電話が入りました。そういう「ご縁」ってな感じのご依頼
        は断れませんわ。速攻でOKしてしまったので、結局1日1時間以上のペース
        で仕事しています。さすがに気絶寸前。
         ん? 説明不足? ええっと、「1時間ペース」というのは録音時間が1時
        間ということで、起こし、聞き直し、字句の確認、レイアウト等全部を含めて
        納品するまでに、順調にいって10時間前後はかかるでしょうか。録音状態が悪
        いか、検索字句が多い専門分野の場合、24時間納期ってアウトです、完全に。
        だからもう、がけ際に立っているような心境で仕事してます。

         そんなわけで起こし屋は量をこなす職業ライターですから、入力スピードと
        いうのは永遠の関心事なんです。普通は仕事1本に対して出来高の報酬をいた
        だくので、入力が速ければ時給換算の単価が上がります。でも、実はこの仕事
        を始めたとき、私は全くキーボードが打てませんでした。

        ◆親指シフト地獄の特訓(ウソ)
         2号にも書きましたけど、仕事を教わったのは速記事務所です。私は単なる
        外部委託者として面接に行ったのに、そこの事務所は人を育てる心意気のある
        ところだったので、さも当然というようにこう言いました。
        「うちは親指シフトというキーボードを使ってるんだけど、あなたもやる?」
        「へっ?」
        正直、在宅で、しかも自前のパソコンで仕事をするのに、何でキーボードの種
        類を限定されなきゃいけないんだと思いました。そのキーボード、買うのは私
        だろう。ローマ字入力ならそこそこできたし、だからこそ面接に行ったんだし、
        何と言っても親指シフトと言えば、既に過去の遺物……と思いつつも、何とな
        ーく乗っちゃったんですよね。ええ、やってから考えるタイプです、私。
        「はい、やってみます」
        「じゃ、使っていないワープロ(専用機)があるから、それで練習して」

         そんなふうにして、私の仕事は親指シフトの練習からスタートしたのでした。
        しかも、毎日事務所に通ってたんですよね。だって自宅のパソコンはまだJI
        Sキーボードでしたから。交通費は往復1,500円。身分的に事務所との関係は
        一切ないので、当然自腹です。通勤には片道1時間。結局4カ月通いました。
        これ、人に言うと結構あきれられます。
         最初は事務所の隅で、ワープロについている練習メニューをポチポチ押し
        て練習しました。画面に出てくる字を入力して、○○文字/分とか正解率○○
        %とかをチェックする。これからスタートしたから、いまだに入力スピードの
        測定をするのが癖になっています。
         やっているうちに気付いたんですが、見えたものを入力するのと、聞いたも
        のを入力するのでは反応スピードが違うんです。脳の使う部分が違うんですね。
        我々は聞こえた音を入力しなければならないので、画面に出てくる文字を声を
        出して読みながら入力練習をしていました。(事務所の片隅でこっそりとです
        けど)
         さらに、これができても全然速くならなかったのは、自分で考えたことを入
        力するスピードです。これはまた脳の使う部分が違う。おもしろいですねえ。
        メールを書いたりするのにもったもたしていてね。練習のために、メーリング
        リストや掲示板にごっちゃり書くようになったのはこのころです。まあ、今
        「あれは練習のためだったのよ」と言っても、信じてくれる人は少ないと思う
        けど。

         最初の仕事は3週間後。4時間かかってやっと10分のテープを入力しました。
        やっぱり2号に登場した部長さんとの会話。
        「終わったところまで下さい」
        「ここまでです」
        「…………。はい、じゃ、もうこの仕事はいいです……」
        ……ああ、またもや撃沈。
         大体12文字/分ぐらい。仕事にならないスピードでした。でも、在宅だった
        ら10分なんて細切れの仕事はきません。通勤したからこそ、そのときのレベル
        に合わせた量の仕事を調整してもらえました。
         まあ、速記事務所の世界を毎日見ることができ、仕事をただで教えてもらい、
        調整しつつもコンスタントに仕事をいただけたのは、私のこの業界での最初の
        幸運なのです。

         で、入力のほうの話ですが、最初が最初なだけに、やればそれなりに速くは
        なっていきました。10分入力しては文字数をカウントし、10分入力しては文字
        数をカウントし、それを何回も続けていく。25文字/分から30文字/分あたり
        だと、集中力も10分程度しか続きませんし、入力スピードを計測するのが息抜
        きであり、励みでした。(なんかすごいBGMでも想像しながらお読みくださ
        い)
         その後、どのぐらい上達したかはこんな感じです。

            1カ月目 12文字/分
            4カ月目 40文字/分
            7カ月目 70文字/分

        ここまでくると、そこそこ入力できるというレベルになっています。単純計算
        で、1時間テープを4~5時間で入力できる速さになっています。コンスタン
        トにトップスピードを維持できるわけではないので、実際は6時間以上はかか
        っていましたかね。

        ◆親指シフトのメリット・デメリット
         親指シフトは速いんでしょうか? いろんな方に質問されます。速い速いと
        言われていますが、その根拠は次のとおりです。

         ・仮名入力なので、ローマ字入力に比べて打鍵数は約半分。
         ・効率的なキー配列のため、指の疲労度が少ない。
           ⇒ 仮名を3段に配列。(JISだと4段)
             入力使用頻度の高い仮名を中段に配置。
             各指の打鍵割合がほぼ均等。(ローマ字入力だと母音の指が疲れる)
             シフト/BSキーが近い。(シフトはスペースの下/BSは中段右)

         デメリットは、マイナーだということに尽きると思います。価格、商品の充
        実度合い、他製品との相性・互換性……、いろいろあります。マックユーザー
        の悩みと同じですね。
         あなたはやってみたいでしょうか?
         私のケースで半年かかりましたので、気軽にはお勧めしません。今もし順調
        に仕事をしているのなら、12文字/分なんてスピードでは仕事になりません。
        何カ月か仕事をセーブすることになる。ところが、今の話と逆になるけど、仕
        事でやらないとなかなか上達しないです。納期があって、いついつまでにここ
        まで入力しないといけないという追い詰められた状況で何時間も入力し続ける
        からこそ習得できるんです。
         どんな入力方法でも、地道に自分のスタイルを研究すれば入力は速くなる、
        そう思います。

         とはいえ、自分は全く後悔していません。親指シフトにしてよかったと思っ
        ています。もっともっともっと速くなるには、やっぱり親指シフトのほうが有
        利だからです。
         先日い~い感じのテープが来たので、久しぶりに計測してみました。

            26カ月目 145文字/分

        というスコアが出ました。
         まだまだ進化する予定です。

        ◆あとがき
         親指シフト導入の話ってこれまでもいろんなところで書いてきたし、自分の
        中ではもう古ーい話なので新鮮味がないんですが、ここまできちんと書いたの
        は初めてです。そういう意味では、すっきりしたというか、ほっとしたという
        か。
         これから入力系の話は時々していくと思いますが、私の場合、親指シフトは
        前提条件なので、どうしても最初のうちに書いておきたかったんですよ。やっ
        と自己紹介が終わった気分です。

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        === さくさく堂のテープ起こし業務日誌  第6号 (2003/6/24)===

        ◆SOHOは楽し
         例えばこんなとき--

         週末の早朝、キーボードを打っています。子供たちは平日より少し寝坊して
        8時前後にゴソゴソと起きて、仕事部屋をのぞきに来ます。私はヘッドホンを
        外し、「おはよー」と子供をひざに乗せ、ちょっといちゃいちゃしたりしてリ
        ビングへ行きます。
         冬なら暖房を入れ、子供のひざに毛布を掛け、夏なら窓を開け、冷たい麦茶
        を入れたりして、自分はまた仕事に戻ります。子供たちはお楽しみのアニメの
        時間。
         アニメが終わる時間を見計らって、また仕事を中断し、朝食と着替えを用意
        をしてあげます。

        --そんなとき、「幸せだなあ」と思います。

         なぜこれが幸せなのかは、SOHOになる前の話を少ししないといけないか
        もしれません。長い間フルタイムで働いていました。職場や家庭環境の変化に
        伴いいろんなやり方をしたのですが、最後のほうはこんな感じの生活でした。
          5時起床 洗濯・掃除・朝食作りなどの家事をする。
          7時に家族を起こし、7時30分に家を出る。
          夫は保育園経由で8時過ぎに家を出る。
          夕方6時半に保育園到着。9時までに子供の夕飯・風呂・就寝。
          夫は深夜帰宅。
         まあ、こんな生活をしていると時間的には精一杯で、仕事も家庭も中途半端
        という感は否めない。私は思い切り仕事をしたかったので、何年も何年も定時
        で帰ることに大いにストレスを感じていました。残業を美徳とは思っていませ
        んけど、就業時間ギリギリのトラブルを人に引き継いでいくって嫌ですよねえ。
        出張も長いこと行けなかったな。じゃ、仕事以外の生活は充実しているかとい
        うと、通勤時間を入れて毎日仕事のために11時間も使っているわけですから、
        ほかのことができるわけじゃない。それはつまらない人生ですよねえ。
         何とかして自分のための時間が欲しいと考えた結果、「そうだ、寝なければ
        いいんだ」と気付きました。そこで、4時半に起きて、5時までの30分を自分
        の時間としました。TOEICの勉強をよくしていました。転職か転勤の足し
        になるかなと思ってたんですよね。資格の勉強は合格しないことには何にもな
        らないけど、TOEICは点数ですからね。勉強した分は成績にすぐ反映され
        るので結構楽かったです。
         そんなことを続けていたら、ある日入院してしまいまして、私は寝ないと生
        きていけない人なんだということがわかりました。(もっと早く気付け?) 
        じゃ、どうやって時間を捻出する?と考えた結果、出た答えは「私の生活で無
        駄な時間はもう通勤時間しかない!」。

         保育園の送り迎えとか、食事を作るとか、ごみ出しとか、植木の水やりとか、
        ある時間にできなければ価値が下がる家事というのは1日の中に点在し、その
        合間にニッチな時間が存在します。そこに仕事時間を押し込んでいくと、仕事
        をたっぷりすることができ、かつ仕事以外のこともたっぷりすることができま
        す。今、仕事は平均すると勤め人時代と同程度やっていると思いますが、仕事
        以外のことをする時間は随分増えました。
         家人が朝寝坊をする週末の早朝は、主婦にはニッチな空き時間です。うちの
        子らはまだ親離れは半分というところですが、大好きなアニメの時間に母なん
        か不要。そんなふうに家族がそれぞれの世界を持って、それぞれの人生を堪能
        し、好きなことをしている時間は至福の瞬間です。(ちなみにダーリンはまだ
        夢の中。それも多分至福の瞬間)

         「家で仕事をしています」と言うと、勤め人も専業主婦もちょっとうらやま
        しそうな表情をする人が多いです。確かにどちらから見ても、一見いいとこ取
        りという感じはしますよね。そういう人たちに「週末の早朝を仕事時間に充て
        ている」と言うと、うらやましい表情がサーッと引きます。そんなに引かなく
        てもと思うぐらいです。(笑) 私にとって最高に幸せなことは、世間の通常
        の感覚で言うとSOHOのデメリットになるわけです。
         でもね、メリットかデメリットかなんていうのは、ものの見方による場合が
        多いんですよ。「メリットか」じゃなくて、「メリットと考えるか」なんだよ
        ねー。多くの人が最も仕事をやりたくない時間に仕事をすることをメリットと
        考えてしまう私は、SOHOは楽しいと思う人種です。
         ……ああ、でも深夜割り増しとか早朝割り増しとか週末割り増しとかはSO
        HOにはないです。全然ないです。それはどこから見てもデメリットかなあ。
        そういう部分をポジティブに考えられる人は今度教えてください。

        ◆性格判断
         今回の文章を読んで、
        「いい家族だなあ」と思ったあなたは、純粋で心根の優しい人です。
        「要するに、子供の世話とかはチャッチャッと適当にやってるのね」と思った
        あなたは、賢明で洞察力のある人です。

        ◆最近の検索の結果
         ここのところ字句の検索をすると、どうしても2ちゃんねるに迷い込んでし
        まうことが多かったです。そういうジャンルの仕事をしていたということです。
        「そういうジャンルの仕事」か「2ちゃんねる」の話は、できたら今度したい
        と思います。

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        === さくさく堂のテープ起こし業務日誌  第7号 (2003/7/3)===

         6月下旬は全く書いている暇がありませんでした。(いや、書いてはいたんで
        すが、ネタがおもろうなくて……)
         私はずっと登録会社1社からの仕事がほぼ100%だったので、今まで仕事がダ
        ブるという経験をしたことがなかったのですが、ほかの仕事を入れるようにし
        たら、どういうわけか途切れなくて、結局6月はずっとダブルで仕事を抱えて
        いる状態が続いてしまいました。でも、それはそれで楽しいということが判明。
        録音状態のあまりよくないものもありましたが、交互にやっていくと結構進む
        んですね。
        「仕事の気分転換には他の仕事」

        ◆登録会社
         さて、ふだんは言わないのですが、さっきあえて「登録会社」という表現を
        しました。フリーランスの入力者と発注元をつなぐエージェントのことです。
        変な言い方ですね。どういうわけか、この言い方が広く普及しています。
         私がメインで仕事を受注している速記事務所は、在宅ワーカーやSOHOな
        どという言い方が普及する前から、外部に仕事を委託していました。多くは結
        婚・出産などで退職した元社員だったのではないかと思います。固定経費がか
        かる社員をたくさん抱えず、オーバーフローする仕事を外部作業者で調整する
        アウトソーシングは最近の業態のような感じがしますが、この業界では歴史が
        古いのです。
         ワーカーは会社には雇われていません。仕事が来るか来ないかは実力次第。
        量の保証はないし、やった分だけしか報酬はない。確定申告も自分でやる。そ
        れでも、会社は仕事がダブらないようにスケジュール管理をし、向いている仕
        事を選択してくれ、料金の回収もするマネージャーの役目をしてくれます。ま
        た、最終的なチェックをしますから、校閲のバックがある場合もあり、教育の
        側面も担っています。そこには「うちが抱えているワーカー」という意識があ
        ります。ワーカー側も会社への帰属意識が少なからずある。
         一方、ワーカー側にはここ数年で変化がありました。SOHOという言葉の
        定着とともに、複数の会社に登録し、複数の会社から受注するフリーな立場の
        ワーカーの登場です。彼らから見ると、その登録会社はただのクライアントの
        1つ。「あの会社? 単価安いから切っちゃった」
         その意識の乖離は結構大きいものがあって、時にトラブルの原因にすらなる
        ことがあります。特にインターネットが普及する前から外部委託をしていた会
        社ほど、今のSOHO事情にうといかもしれない。
         どちらがいい悪いという問題ではありませんが、自分がどちらに向いている
        かは見極めたほうがいいと思います。SOHO流行りで「独立開業、独立開業」
        と熱病にうなされているワーカーがたくさんいますが、テープ起こしの能力と
        経営者になる能力は全く別物です。テープ起こしの能力はあるけど、独立開業
        の向かない人もいるし、営業は上手だけど、実はテープ起こしの実力は大した
        ことないという人もいます。

        ◆地方自治体 《議会の流れ》
         今回は議会の流れについて書こうと準備していたのですが、あまりにも事務
        的でつまらなく、「これじゃ、メルマガとしてあかんやろ」と思ったので、半
        分ずつ載せることにしますね。
         県・市・区・町議会の議事録をやったことがあります。今メインで持ってい
        るのは市議会。どれも流れは大体一緒です。

         地方自治体で何かをしようとした場合、議会で話し合われるのは、

          ルールとしてやっていいのか → 条例の制定(改正)
          どれぐらいお金を使っていいか → 予算(補正予算)の確保

        になります。これらが議案として「上程」されます。初日に上程された議案は、
        常任委員会(総務・建設・経済・厚生等々)、あるいは短期的な問題を話し合
        う特別委員会(例えば駅前再開発・予算)に「委員会付託」され、委員会で実
        際に審議されます。そして、最終日に委員会の報告を受け、採決します。
         それから、議員側から自由テーマで行政に文句を言う機会もあって、それが
        「一般質問」。これは会期の真ん中あたりにやります。
         これを年に4回、6・9・12・3月に開催するのが定例会。

         定例会の流れはこんな感じ。
        初日  …… 議案の上程、委員会付託
        ○日目 …… 一般質問(代表質問/個人質問)
        最終日 …… 委員長報告・質疑・討論・採決

        あと、請願とか陳情とか発議案とか認定とか報告とか議長選挙とか所信表明と
        か行政報告とか--はぁはぁはぁ、息切れ--さまざまありますが、議会の核
        の部分はこの3つ。それぞれが1日で終わらなかったら何日かに分けます。一
        般質問の前後に委員会審議があります。

         6月に議会と並行してやっていたのは雑誌の仕事で、「雑誌は面白いよなあ。
        でも議会も好き」と思いつつ入力していました。1つの議会を年間通して起こ
        すからこそ面白さに気づくという部分はあると思います。
         次は、議会の面白さについて書いてみたいと思います。

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        === さくさく堂のテープ起こし業務日誌  第8号 (2003/7/11)===

         先日、神奈川エリアのSOHOオフ会に行ってきました。何だかよくオフ会
        に行ってますね。でも、別に「オフ会好き好き、絶対行きまーす」ではないん
        ですよ。セミナーに行くのと同じ感覚ですね。必要だから行く。
         今回はデータ入力系の方と初めて交流してきました。パソコンを使った在宅
        ワークということで共通項もたくさんあるけど、意外な相違点もたくさんあり
        ました。面白かったので、この辺はもうちょっと情報収集してみたいですね。

        ◆「SOHO」と「在宅ワーク」
         その席で教えていただいたんですが、「SOHO」と「在宅ワーク」って、
        皆さん、使い分けているんですって。すんません、知りませんでした。
         「SOHO」は個人事業主のイメージ。「在宅ワーク」は主婦のお小遣い稼
        ぎのイメージらしいです。確かに、主婦系の雑誌に載っている見出しはみんな
        「在宅ワークを始めよう」「パソコンで在宅ワーク」ですね。片や年商1,000万
        の人が出てくる雑誌には「SOHOで独立する」なんて書いてありますから、
        そういうイメージを持つ人がいるのはわかります。
         「さくさく堂、SOHOと在宅ワークという言葉の使い方が雑!」と思って
        いた方がいらしたら、今まですみません。申し訳ありませんが、これからも雑
        でいきます。だって、興味のない人にはわからない言葉の使い分けして、何の
        意味があるのさ。モー娘。に興味がない人に、プッチモニとタンポポの違いを
        説明しても無意味なのに似ている。んっ、似てない?

         「私は在宅ワーカーじゃなくて、れっきとしたSOHOよ」と、在宅ワーカ
        ーより優位に立とうとするのって、何だかあと思うんですよ。これと似ている
        と思うのが、「テープ起こしは、通信教育の宣伝みたいにだれにでもできる簡
        単な仕事じゃありません。奥が深いんです」というやつです。
         別に100人いたら100人にできる仕事とは言いません。向き不向きもあるし、
        好き嫌いもあるし、はっきり言ってあんたの国語力じゃ無理という人はいます。
        でもねえ、どこの世界に自分の仕事が難しいって言う人がいます? 「いやい
        や、こんなチンケな仕事、だれにだってできますよ。何せ私にもできるんです
        から」つうのが大人の駆け引きなの。それをプライドと言うなら、随分安いプ
        ライドだなと思う。

        ◆議事録はつまらなくない
         前回、議会の流れについて簡単にお話ししました。私は別に議事録専門の起
        こし屋ではないですが、量的にはたくさんやっているので多少は愛があります。
        「議事録なんてつまんない」とか「議事録なんて簡単」という発言を聞くと、
        ちょっとばかりムッとします。今回は私個人の楽しみ方をご紹介します。
         議事録はね、ある意味新聞と一緒です。新聞は日替わりの連載物。ある日だ
        けぽつっと読んでも全然面白くない。きのうまでのいきさつを知っているから
        こそ、きょうの記事が面白い。それと同じです。ですから、毎日読んでいても
        新聞はつまらないと思う人には、議事録もつまらないかもしれない。
         議会の醍醐味はやっぱり一般質問でしょうか。国レベルでは政党離れという
        現象が起きていますが、市町村ではもっと議員と密接な関係があって、政党離
        れもありますが、同時に個人としてこの人にまちを託せるかという視点で選ば
        れてきています。市民は街頭演説をしている候補を見ていますし、「子育てし
        やすいまちに」と言っているその人が邪魔でベビーカーが通れないとかいうこ
        ともよく見ています。
         そうやって選ばれた結果、いわゆる「一人会派」が多い議会は、私見ですが、
        一般質問も迫力があるように思います。これも私見ですが、そういう議会では、
        首長も当然論客であることが多いです。すると、一般質問は結構バトルになる
        んです。バトルができるような議員さんは早口の方が多いので、起こし屋とし
        ては迷惑ですが、まあ、もめたほうが断然面白いですね。
         バトルにならない一般質問もたくさんあります。地方議会で質問の構築がで
        きない議員なんてざらです。検索が必要な字句もほとんど発しませんし、とに
        かく発言がゆっくり。お得な仕事ということで、こういうときはなるべくテー
        プをとめずに、発言のスピードで入力する練習をします。
         それから、議場というところは録音設備が完備されていて、発言もかぶりま
        せん。そういう意味では最も楽な仕事であると言えます。(実は難しさもあっ
        て、今私はどんより落ち込んでいますが、難しさについては別の機会に書きた
        いと思います)
         1年やっていると、そのまちの風景が見えてきます。行ったことのない、議
        事録をやるまでは読み方すら知らなかった(ホント)まちだけど、もしかした
        ら住民よりもそのまちのことを考え、そのまちの問題点を把握している私って
        一体……。最初の年に1年任されたまちには思い入れがあって、いつか旅して
        みたいと思っています。

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        === さくさく堂のテープ起こし業務日誌  第9号 (2003/7/19)===

         聞いたことのない単語や固有名詞がテープに出てくると、どう表記していい
        のかわからないので、その表記を調べるためにネット検索という行為を多用し
        ます。辞書でも調べますが、まずネットですね。そして、あるジャンルのテー
        プでは、検索しても検索しても、いつも2ちゃんねるの過去ログ倉庫に入って
        しまうことがあります。

        ◆2ちゃんねるの話
         「2ちゃんねる」というのは、巨大な掲示板の集合体です。この2ちゃんね
        るをどうやって説明したらいいのかしばらく考えていましたが、それこそGoogle
        で「2ちゃんねるとは」などをキーワードに検索してください。あるいは実際
        に2ちゃんねるのスレッドを読んで、ご自分で判断するのもいいかと思います。
        百聞は一見にしかずです。ここでは、「2ちゃんねるとは、よくも悪くも最も
        インターネット的」とだけ言っておきます。

         インターネット的ということは、つまり匿名性が高いということ。2ちゃん
        ねるに限らず、ネットの情報はすべて匿名だと思ったほうがいいです。たとえ
        プロフィールが「30代、男。ソフトウェア会社勤務。子供2人。東京在住」と
        いう人の家族のプライベート写真や日記のサイトがあったとしても、その家族
        が実在するかどうかは別問題です。
         ネットの匿名性に関しての議論を見つけましたので、ご紹介しておきます。
        ステレオタイプではない意見もあって、私も少し認識を新たにしました。テー
        プ起こしからだいぶ外れてしまう気もしますが、ネット社会と上手に付き合う
        ためには、この匿名ということ、また逆に匿名とはいえ、全く痕跡を残さない
        わけではないということをきちんと学んでおくことは必要だと思います。

        スラッシュドット ジャパン 匿名発言の濫用は匿名発言の制限を招く

         ネットというところは、悪意のある嘘、扇動する嘘、ただの勘違い、本人は
        真実と思っている間違い、文字の変換間違いなどにあふれています。新聞や雑
        誌なら、どの新聞・雑誌には真実が書いてありそうとか、どの新聞・雑誌には
        バイアスがかかっていそうとか、あの新聞・雑誌は「報道というよりは記事」
        というイメージがあると思うんですが、ネットでその色分けをするのは難しい
        ですね。情報の信憑性と匿名というものはやはり相関があるように思います。
         プライベートでどの情報を信じ、どの情報を信じないかはお好きにしてくだ
        さればいいのですが、テープ起こしで検索をしているときに間違った情報をつ
        かんでしまうのはとても困る。だから、できるだけ公式サイトを探していきま
        す。公式サイトにも勘違いや変換間違いはありますが、悪意のある嘘は少ない
        と思います。
         たまたま2ちゃんねるには膨大な過去ログ倉庫があって、それらが検索に引
        っかかるので2ちゃんねるの話をしていますが、とにかく検索結果に公式サイ
        トが出てこない場合、「あちゃー、まいった」なんです。

        ◆すごい話の話
         検索結果が2ちゃんねるばかりって一体どんな話題や?っていうとですね、
        いろいろですが、例えばサブカルチャー系とかです。あー、でも言っておきま
        すが、まだお色気系のテープをやったことはありません。いや、ちょっとある
        な。「イく」という表記を使ったことはあります。まあ、それはいいとして…
        …。
         もうちょっと具体的に言えれば、「ぶぁっはっはっ。そりゃ公式サイトはな
        いし、2ちゃんじゃ情報盛りだくさんだよねえ」ということが多分わかるんで
        すけど、言えないのでお好きに想像してください。
         言い方を換えれば、「あなたの知らない世界」です。(オカルトという意味
        ではありませんが) これがガセネタでも何でもいいから、とにかく情報が手
        に入るんだから、インターネットはすごいです。インターネット様々です。信
        用できないところが玉にきず。そして、基本的な知識も得ておこうと思ってス
        レッドの前後も読み始めると、仕事が中断してしまうことがたまにあります。
        ハハハ。あなたの知らない世界は、つい引き込まれる世界でもあります。
         ついでに言っておくと、テープの語り手は、そのあなたの知らない世界(だ
        から、どんな世界?)の当事者や関係者なわけですね。テープそのものも「へ
        ー、ほー」の内容だったりします。まあ、本当のスクープ、内緒話が、私のよ
        うなフリーの起こし屋のところにくるわけがないので、そんなにすごい内容で
        はありませんけどね、洗脳されるかもしれないし、反対にパソコンに向かって
        「ばか言ってんじゃねー」と叫んでいるかもしれないし、検索して出てくる内
        容にあてられるし、録音がちょっとという確率も高いし、こういう仕事はたま
        ーにでいいです。

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        === さくさく堂のテープ起こし業務日誌  第10号 (2003/8/1)===

        ◆肩書きって……
         サイトができたので、身近な人に名刺を配りました。テープ起こしなんてマ
        イナーな仕事は知らない人ばかりだろうと思っていたら、これが知っている人
        は知っているんですね。たった15枚程度のばらまきで、複数の反応があったの
        で結構びっくりでした。
         うちの子供たちは保育園、学童保育に通っているので、近所の知り合いは共
        稼ぎ夫婦が多く、共稼ぎと言えばやはり公務員。そうするといわゆる当局や議
        会事務局に関係している人もいて、「私も苦労してやりましたよ」とか「幾ら?
        ……ああ、それぐらいね」なんて相場まで知っている人もいました。面白かっ
        たのは、「○○さんって人にお願いしたことあるけど」という起こし屋さんを
        私が知っていたこと。狭い業界なのねと実感。

         名刺には「さくさく堂代表」と印刷していましたが、男性諸氏のリアクショ
        ンがワンパターンなのでやめました。たった一人の、法人でもないフリーラン
        スごときが「代表」でもないだろうという感じなんだと思います。「いやいや、
        代表って言っても私一人なんで……」と毎回説明するのが面倒になったのと、
        確かにちょっと誇大広告かなと反省して、肩書きを「ライター」に戻しました。
         ライターと自称するのも言い過ぎだと思ってはいるんですが……。原則的に
        は「聞いたとおりに書く」、そこにライティングの要素はないですからね。

         『オーラル・ヒストリー』(御厨貴著 中公新書)にこんなことが書いてあ
        ります。

          おそらく一番ひどいテープ起こしは、ここでの議論とは全く逆に、本当に
          語り手がいった通りに起こされたもので、しかも不明な箇所がたくさんあ
          るものだ。

         後半は当然のことです。不明箇所が多いものは、どんな場合にもよくないテ
        ープ起こし。ただ前半は、著者の目的がオーラル・ヒストリーで、かつ録音も
        同行する、起こし加減に満足できるテープ起こし者と作業しているという前提
        での発言だろうと私は思っています。テープ起こしの用途はさまざまで、「本
        当に語り手のいった通りに起こされた」原稿を求めているクライアントも世の
        中にはたくさんいます。要求される起こしのレベルはさまざまで、そのさじ加
        減のことをライティングと言っていいのなら、ライティングの要素は必要です。
         最終的には、どの程度さじ加減ができるか、どの程度ライティングができる
        かということがテープ起こしの質の決め手になるのではないかと思いますが、
        ライティング以前の技術というのもこれまたいろいろあって、私はそこでつっ
        転ぶことが多いです。イタタ

         この前、テープ起こしに興味を持っている人に「(当然)聞こえないところ
        って適当に埋めちゃうんですよね」と言われて、私はかなり狼狽しました。実
        は現実的にそういう作業をすることもありますが(オイオイ)、でも精神的に
        は「しません、絶対しません」です。発言を創作しようという意識を持ったら、
        それはテープ起こしではなくなってしまう。
         そういう意識でライターと名乗っちゃっていいんかなあ。ちょいと傲慢でし
        ょうか?

         名刺に肩書きを載せるのは、日本が肩書き社会だからです。肩書きのない名
        刺をもらっても、どう判断していいかわからない人は多いです。「○○研究家」
        と自分で職業名を作ったっていい。とにかく入れておくことは大事かなと、今
        のところ考えています。屋号の「さくさく堂」だけでは、10人が10人、「で、
        あんた、何やってんの?」と言うことでしょう。名刺を机の中にしまい込んだ
        人が、半年後に思い出して見たときに、連絡したくなるような名刺を作りまし
        ょ。
         「代表」と書くと自営業という意味合いが濃くなり、「ライター」と書くと
        技術者という意味合いが濃くなります。どっちも自分を正確には表現していな
        くて、落ちつかない。いい解決策はありませんかねえ。

        ◆ニューパソコン
         3年ぶりにパソコンが新しくなりました。テープ起こしだけやっている分に
        は、パソコンのスペックはそんなに関係ないんですね。最新のソフトもあまり
        必要ありません。今までWordは2000だったし、一太郎は13にしてから受注がな
        いし、OASYSはV8です。それで仕事に支障はありませんでした。エクセルを駆
        使する方はバージョンの問題は大きいと思うけど、テープ起こしでエクセルを
        指定されたことはありません。世の中広いのでそういうオーダーもあると聞い
        たことはありますが、それにしてもセルに文字列を入れるだけなら、最新機能
        は使いませんよね。
         ニューマシンは十分すぎるCPUとメモリですが、何せ文字入力だけなので、
        スペックのすごさを実感する機会がほとんどありません。パソコンの処理が追
        いつけないほどの高速入力になってみたいぜ、コンチキショウ。ゴホゴホ。て
        なわけで宝の持ち腐れ状態ですが、1つちょっといいことがあります。
         機能というほどでもないですが、ディスプレーが90度回転して縦型になるん
        です。昔のOASYSのビジネス機のようです。A4の紙を縮小しないで表示でき
        るのって楽ちーん。
         それから、今まで全く気付かなかったんですが、Webって縦長なんですよ。
        ほら、横のスクロールより縦のスクロールのほうが多いでしょ。ディスプレー
        の横幅が狭くなったからって、横方向にはみ出すことはほとんどありません。
        縦方向はといえば、検索画面のリストの表示数が増えちゃうわけです。これ、
        目からうろこ。

         新しいパソコンはブラックのシックなデザインでかっちょいいんですが、キ
        ーボードだけが親指シフト用のライトグレーで、うーん。トランスクライバー
        も同じ色だから、コーディネイト?
 

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